「自分にちょっと飽きていた」是枝裕和監督が、『箱の中の羊』で見つめた“想像力”と新たな挑戦を語る
「同じものを同じように作ろうと思っても作れないから、基本的には全部一回限り」
――是枝監督に対する世界や世間の評価が固まってしまったと感じることはありますか?「ファミリードラマの作家」とか。
是枝「それはあるかもしれないけど、ま、それでいいんじゃないの。それと違うものも作るつもりだけど、“是枝といえばこういう作品”と思ってもらえるものがあるっていうのは、すごく贅沢なことだと思います」
――ここ数年海外で作品を撮られたり、挑戦されたりしています。それは固まってしまった“是枝評”に対するチャレンジなのかなと。
是枝「結局、僕が撮っているのはファミリードラマですけどね(笑)。評価にチャレンジというよりは、自分にちょっと飽きていた。自分じゃないものと接することで、いろいろなものを吸収しようと思ったのは間違いないです。だからフランス映画だったり、『阿修羅のごとく』で向田邦子の脚本をリメイクしてみたり、『怪物』で坂元裕二さんと組むとか、自分とは異なる核を持っている人との勝負をするわけです。それはとても楽しかったし、それを経て、もう少し自分が書くものが新鮮に感じられるようになるといいなと思いながら、いま、戻ってきてオリジナル脚本を書いているわけですけど。きっと、その繰り返しですね。自分のこと、そんなに好きじゃないんですよ(笑)」
――そうなんですか!
是枝「自分のことがそんなに好きじゃない。同じものを同じように作ろうと思っても作れないから、基本的には全部一回限りです。ただ、時々そういうスクラップ・アンド・ビルドをやりたくなる。一度積み上げたものをちょっとゼロにして。カメラマンの山崎(裕)さんとずっとやってきて、一旦山崎さんとのタッグを離れて、別のカメラマンということで、瀧本(幹也)さんとやったりね。次はまた海外だから、もう一回チャレンジしてみて、いままでのフランスと韓国の収穫と反省を元にしてなにができるかっていうところです」
――先ほどは深田監督、濱口監督、岨手監督とお食事に行かれていたとのことですが、是枝監督は、次の世代の方に対するケアというか、育てるということをすごく意識的にされていますよね。日本映画の未来についてはどうご覧になっていますか?
是枝「若い監督がたくさん出てきてすばらしいと思います。ただもっと手厚い資金集めを日本国内でできるようにしないと…。彼らがそれを望んでいるかわからないけど、濱口さんとか、国内でちゃんとサポート体制を整えないと、フランスに取られるなっていう(笑)。プロデューサーは危機感を持たないといけないです」
――製作資金のところで言うと、映画を作るための適正予算については考えられますか?
是枝「感じてますよ。僕はそんなにお金がかかる監督じゃないなと自分では思っているんですけど。ナ・ホンジンじゃないので、30億とかかからないから(笑)。でも、製作段階で海外の公開を前提とした資金集めと製作体制が組まれているので、それはすごく恵まれていると思います。みんながそうなっているわけじゃないので。やっぱり、日本国内の興行だけを当てにして作っている映画の予算はとにかく足りないです。あれだと労働環境も守れないと思います。
僕は分福(是枝監督、西川美和監督率いる映像制作集団)の人間には口を酸っぱくして言ってるんだけど。『わかっているだろうけど、君たちは人のお金で映画を撮るんです。それを〇〇監督作品と名乗るわけだから、お金を使うだけではなくて、そこで働いているスタッフとキャストの生活を守る義務があるし、それを覚悟してちゃんと現場に立ってください』と。プレッシャーをかけるわけじゃないけど、現場に立った時になにかしでかしたら、それは分福の何々がって絶対に言われるわけだから、それも覚悟して、ちゃんと自分をコントロールしてやらないとダメですよ、と言っています。監督って大変なんですよ。簡単になれるものじゃないんです」
取材・文/平井伊都子
