「自分にちょっと飽きていた」是枝裕和監督が、『箱の中の羊』で見つめた“想像力”と新たな挑戦を語る

「自分にちょっと飽きていた」是枝裕和監督が、『箱の中の羊』で見つめた“想像力”と新たな挑戦を語る

「AIと人間をかろうじて分かつものが“想像力”ではないかと思います」

――なるほど。近未来というと、どれくらいの未来の設定でしょうか?

是枝「いまから10年後。というのは、先ほどの中国の開発者が、10年後に実態を伴うところまで実現したいって言っていたからです。そこを設定にはしたんだけど、日本に戻ってからいろいろと専門家の話を聞いてみたら、『生成AIは多分5年でここまで行くでしょう』と。『でもロボット工学はそこには行かない』というのが、僕が聞いた限りの実感でした。というのは、いまのロボット工学はこの方向性を目指してないから。ロボットを人型にしていくことにかけられるお金や技術は、別へ向けたほうがいいらしい。だからそこはフィクションで行くしかないなと思って、10年後ぐらいの設定にしました。いまの家電の、冷蔵庫が喋る、パソコンが話しかけてくる、その延長線上でのヒューマノイドです」

舞台の設定はいまから10年後の未来という
舞台の設定はいまから10年後の未来という[c]2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

――海外より日本のほうが、家電が喋る技術は進んでいる気がします。

是枝「機械が擬人化されているのは、圧倒的に日本が進んでいて、身近なものとしてありますよね。だけど、海外の人たちにとっては脅威みたいです。機械に人間的なものを求めるのは、違和感がある。人間がAIに支配されるディストピアみたいなものをみんな見慣れてしまっているし、むしろそのほうがイメージとして近いかもしれないけど、僕にとってそれがリアリティがあるかっていうと、そうでもないんですよ」

――むしろ共存していくほうがリアリティがありますか?

是枝「共存というか、AIにとって、人間なんて多分どうでもよくなるんじゃない。だから人間の社会から離脱するイメージだったんです。こんな面倒くさくてわけわかんない集団と一緒にいると、どうなるか(笑)。だから「離脱して森へ行く」。それがポジティブとはそこまで考えてなかった。彼らにとってはあの森が人間と暮らすより幸せなわけだけど…」

本作のタイトルは、世界中で愛される名作「星の王子さま」から着想した
本作のタイトルは、世界中で愛される名作「星の王子さま」から着想した[c]2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

――作品のタイトルは「星の王子さま」からの引用ですが、このタイトルに込められた想いは?

是枝「いまのところ、AIと人間をかろうじて分かつものが“想像力”ではないかと思います。でも、その想像力の部分をどんどん人間が切り売りして、失ってきている。ヒューマノイドとして戻ってきた翔くんが、寝る前にいつも読み聞かせてもらっていた絵本を読んでもらった時に、『箱の中になにかがいる』という想像ができないっていうのがいいなと思って。まずあのエピソードを書いて、スノードームから王子を解放するというのも一つの“箱”だから、そういう縦軸を考えていった時に、『あ、タイトルになるな』と思ったんです」

――是枝監督は映画を作る時に、プロデューサー的な視点も持たれている気がいつもしているんですけど。

是枝「それほどでもない(笑)」

――映画が観客に届くところまで考えて映画を作られている、そういう監督はあまり多くないような。

是枝「日本なんかは特に、監督は現場が終わったら『あとはよろしくね』という美学がまだあるじゃないかと思います。でも僕は、『空気人形』まではポスターデザインまで自分でアーティストを選んで、製作委員会の会議にも出ていました。会議に参加しないとコントロールできないから。でもある時期から、規模が大きくなっていくにつれて、自分の趣味のなかでマーケティングや広告を収めていくと、公開規模と見合わなくなってしまう。そこからはお任せしています。

でも、さっき深田(晃司)くんに言われたんだけど、『今回の『箱の中の羊』は子どもたちに見せられるフェアリーテール(おとぎ話)ですよね』って。『あ、そうそう、そうなのよ』と思いました。映画に出てくる子どもたちや、中学生ぐらいの子たちが観てもわかる言葉しか使ってないから。その子たちも含めて、映画を観に来てくれるといいなというのは、漠然と考えていましたね」


200名以上のオーディションから抜擢され、本作で映画初出演を果たす桒木里夢
200名以上のオーディションから抜擢され、本作で映画初出演を果たす桒木里夢[c]2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

――以前のインタビューで、映画を作る際に、特定の1人に向けて作るとおっしゃっていました。今回もその1人はいますか?

是枝「(長い沈黙)…ありますね。これね…とある作品の登場人物に向けて作りました。というのは、その登場人物たちの姿が頭にあったんですよね。別に彼らのその後を描こうとかそういうことじゃないんだけど、彼らの、あの状況に置かれている登場人物の別の人生を考えた時に、どういう着地が、展開があり得るだろうか。そういう思いはどこかにあったんじゃないかな。いま、この質問をされて気づいたことだけれど」

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