韓国恋愛映画の新たな金字塔となった『サヨナラの引力』キム・ドヨン監督にインタビュー!「恋愛がうまくいくかよりも、愛し合う過程のせつなさが好き」
「トレーニングウェア、任天堂の帽子、赤いソファー…いろんなアイテムに象徴的な意味を込めました」
2008年から2024年にかけてのソウルと全羅南道・⾼興(チョルラナムド・コフン)を舞台にした本作では、登場するアイテムや空間づくりも重要な役割を担っている。キム・ドヨン監督は「美術チームが本当に小道具の準備を頑張ってくれました」と感謝を口にする。たとえばジョンウォンが着ているベルベット素材のトレーニングウェアは、当時多くの若者の間で流行していたアイテムだ。さらに、俳優陣からのアシストもあった。
「実は、ク・ギョファンさんご自身もゲームが大好きで、かつては自分でゲームを作ろうと考えたこともあったそうです。なので、ご本人の私物も映画で使わせてもらいました。任天堂の帽子などは、ク・ギョファンさんが持参して部屋に飾ったんです」
特に、原作映画にも登場するソファーに、キム・ドヨン監督は象徴的な意味を込めた。2人で生活し始めたものの、やがて経済的に苦しくなったウノとジョンウォンは、半地下の部屋に引っ越していく。ソファーは以前、ジョンウォンが気に入って拾ってきたものだったが、新しい住まいには置くスペースがなく、捨てざるを得なくなる。
「ジョンウォンは建築家を目指しているので、家に1つくらいはすてきな家具が欲しいんじゃないかと思いました。また、ソファーとジョンウォンの姿を重ね合わせた面もあります。ソファーはとてもすてきなのに捨てられてしまう。一度は誰かのもとで大切にされても、また手放されてしまうんです。そうした境遇は、ジョンウォンともどこか似ているのではないでしょうか」
挿入歌として使用された、イム・ヒョンジョンが2003年にリリースした「愛は春の⾬のように、別れは冬の⾬のように」もまた、印象的に響く。本作にも登場するSNSの元祖Cyworld(サイワールド)の個人ページ「ミニホムピィ(HP)」で、2008年当時よく使われていたこの楽曲を、ジェイ・キム音楽監督から提案されたそうだ。
「当初は別の曲との間で迷っていたんですが、こちらを選んだのは正しい決断だったと思います。イム・ヒョンジョンさんは『82年生まれ、キム・ジヨン』をご覧になっていたそうで、無償で使用を許可してくださいました。本当にうれしかったです」
「リメイクで一番大切にしているのは、この作品で伝えたいメッセージです」
キム・ドヨン監督は演劇俳優としてのキャリアを積んだのち、40代半ばで映画学校に⼊学し、映画制作を学んだ。長編デビュー作『82年⽣まれ、キム・ジヨン』では、第56回百想芸術⼤賞の新人監督賞を受賞するなど、高い評価を受けた。次回作として、チェ・ミンシクとハン・ソヒが出演する、『マイ・インターン』の韓国リメイク版が控えている。「オリジナルが好きだから」という発言からも分かるように、キム・ドヨン監督の作品からは、原作となる小説や映像作品への強いリスペクトが感じられる。そのうえで、彼女ならではのクリエイティビティや信念も一貫して息づいている。
「リメイクで私が一番大切にしているのは、この作品で伝えたいメッセージです。それは本当に伝える価値のあるものなのか、私自身がそれを上手く作品のなかに盛り込めるのかを考えます。また、物語がおもしろいかどうかも非常に重要です。そして、良い俳優たちと作品に取り組むこと。これが何よりのポイントですね」
260万人の涙を誘った恋愛映画として、多くの人の記憶に刻まれるであろう『サヨナラの引力』。ラブストーリーとしてはハッピーエンドではないかもしれないが、誰の人生にもあるかもしれない大切なワンシーンを呼び起こしてくれる本作は、きっと観客の心に温かな灯をともしてくれるだろう。こんな得がたい魅力を持つ恋愛映画を届けてくれたキム・ドヨン監督自身は、どんな恋愛映画が好きなのだろうか。
「岩井俊二監督の『Love Letter』(95)が大好きでした!マギー・チャン主演の『ラヴソング』(96)も心に残っています。正統派のメロドラマも好きなんですが、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』(02)もすごく独創的で、かわいらしいですよね。そういえば以前、別の作品の準備中に『花束みたいな恋をした』(21)も観たんですが、すごく心に響きました。もしかしたら無意識のうちに、この映画に影響を与えていたかもしれません。たしかに私が描きたいものは、恋愛がうまくいくかとは別のところにある気がします。男女の関係というのは、ある時期をうまく乗り越えてもどうせ変わってしまいますよね。その過程の繊細さが胸を締め付けたり、すごく心に響いたりする。それが好きなんだと思います」
取材・文/荒井 南

