大槻ケンヂが自身の青春と重ねて振り返る映画『五十年目の俺たちの旅』から滲み出るやさしさと切なさ
「昭和の街並みだけでご飯何杯もイケる感じです(笑)」
カースケ、オメダ、グズ六をはじめ、個性的なキャラクターたちが物語を彩っている。大槻のお気に入りキャラクターのひとりは森川正太が演じていた東大志望の浪人生、ワカメこと大造だそう。「ワカメが着ていた、かいまきの布団のような、ねんねこばんてんみたいな服…って言っていいのかな(笑)。昭和の学生って本当にああいうのを着ていたんです。実は僕の実家では学生さんに部屋を貸していたので、リアル“俺たちの旅”っぽいものを目にする機会があって。僕のいとこや、早稲田や國學院の学生さんが住んでいて、ワカメのような格好をしていました。ドラマを観返して、すごく懐かしかったです。ワカメ役の森川さんもそうですが、いまは亡き役者さんもいっぱいでてきたし、東京に限らず、昭和の街並みを見るだけでもたまらないですよね。僕は、昭和の街並みだけでご飯何杯もイケる感じです(笑)」と昭和の要素を存分に堪能したようだ。
映画には過去の映像がふんだんに使用されている。「八千草薫さんが出て来た時は、『やっぱいいよなぁ』と思いました」とうっとりの大槻。今回の映画版で大槻の心をつかんだのは、この過去のシーンも含めたドラマの作り方だと熱弁する。
「最初はサスペンスな感じで始まるじゃないですか。でも、それがひと通り終わると『俺たちの旅』が流れて、当時のテレビドラマと同じように始まる。まず、ここがすばらしい!と思って。テレビドラマの映画化となると、みんな気合いを入れて過去のドラマと同じにしないものが多いですよね。過去のドラマの主題歌も違うアレンジで劇中にうっすらかかるだけ、みたいなものもあります。僕はそういうのはやめてほしいと思っていて。過去のドラマを観ていた人が観るのだから、当時のとおりにやってほしいって思うんです。今回の映画はドラマを観ていた人たちが『そうそう、これこれ!』となる作りになっていたので、そこがすごくよかったです。これが観たいんだよ!っていうね。カースケ、グズ六、オメダの3人が坂道でボール遊びをするシーンとか、本当に当時のまま。ああいうのがうれしいんです。歳をとっている3人の感じもすごくいいしね」と大満足といった様子で、映画の構成を絶賛する。
今回監督を務めたカースケ役の中村をはじめ、グズ六役の秋野、オメダ役の田中、3人のバランス感のよさを映画の見どころのひとつとして挙げる。「中村さんはなにも変わっていない。やっぱりスターだなと改めて思いました。コメディリリーフを務める秋野さんのちょっとトゥーマッチなふざけ具合とかも変わらなくてよかったし、ものすごく貫禄がついた田中さんもすごくよかった。50年経っても3人のバランスがすごくよく取れていますよね。よく見れば変化はあるけれど、やっぱり50年経っても変わらないって感じられるような3人のバランスが本当にすばらしかったです。僕はこのシリーズは3人が集まってわちゃわちゃしていればそれでいいと思っているし、それが観たいんです!3人のアドリブと悪ふざけに近いコミカルな演技、あれがたまらなく好きで。役割も変えず、ドラマのよさをそのまま映画にしてくれて本当に感謝です」。
さらに、「映画とは直接関係ないけれど…」と前置きした大槻は、自身の思い出話のひとつを披露した。「実は、中村さんの娘さん(中村里砂)と対談したことがあって。『俺たちの旅』や『ゆうひが丘の総理大臣』も夢中で観ていて…と熱弁したんです。でもお父さんが出演した作品はあまり観たことがないとおっしゃって。僕が熱く話す様子にポカンとされていました(笑)。そんな娘さんを前に、ドラマの説明をし、テーマ曲まで歌ったりもして。その時に思ったのは、中村さんくらいのスターになると、たとえこんなにすごい名作に出ていたとしても、出演作の話をいちいち言わないんだなと(笑)。そういうところもかっこいい!と思ったのを覚えています」と教えてくれた。
そして、大槻は映画で感じたシリーズファンへの“やさしさ”について語り始める。「普通は過去シーンを流す時は1回ですよね。でも映画では同じ過去シーンが2回くらい映るところがあります。あれがやさしい!若いころの記憶というのは多少混濁していくのが人間というもの。カオスになっていきますよね。映画では、2回同じ過去シーンを入れることで、過去の記憶がいつのものだったかをきちんと視覚化、可視化してくれている。これは中村さんのやさしさです!」と喜びを露わにする。
映画化に際して、過去シーンを入れ込むこと、相当な尺を使うこと、そして画角もテレビサイズの4:3でやることは、中村監督のこだわりポイントだ。「過去シーンを使うことで、70年代のアメリカン・ニューシネマやそれよりちょっと前のヌーヴェル・ヴァーグ的なものを感じたりもして。僕はアメリカン・ニューシネマもヌーヴェル・ヴァーグも完全に後追い世代だけど、中村さん世代だとそういう意識もあるのかな、なんて思ったりもしました」。
