まるで実写映画の“リアル”な表現…『ガンダム』で難題に挑戦する『閃光のハサウェイ』のアプローチ
待望の最新作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下、『キルケーの魔女』)が公開中だ。第1章である前作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)は、宇宙世紀を舞台とした『ガンダム』作品としてファンから熱い支持を受ける一方で、その完成度の高さから“映画”としても高い評価を受けている。そのポイントとなるのが、「実写映画的=洋画ライク」な映像の見せ方にあると言えるだろう。本稿では、近年のハリウッド映画にも通じるシリアスな技法を取り入れた本作の描写を、村瀬修功監督の趣向や演出の見せ方を含めて解説していきたい。
アニメーション制作の最大の利点は、省略と誇張
前提として、アニメーションの制作は「人が絵を描いて動かす」ことであり、省略や誇張によってより印象的に見せられることが最大の利点だ。大ヒットアニメ「鬼滅の刃」を例に出すと、主人公たちが超人的な身体能力を発揮する場面では、実写では不可能なカメラアングルや画面を彩るエフェクトなど、アクションの見せ方を“誇張”することで印象を強めている。また、日常的なやり取りやコメディシーンでは、表情や仕草をデフォルメした作画で“省略”し、わかりやすくするという手法も採られている。
逆に、食事や日常の何気ない仕草といった行動を“リアル”に見せることは、アニメーション制作で苦労する部分となる。視聴する側にとっては、「普段よく見ているもの」が描かれているため、ちょっとした違和感が目立ちやすく、また自然に見せるためには作画に大きな負担がかかるという面もあるからだ。そのため、実写映画のような“リアル”な見せ方は不可能ではないが、しっかりと表現し尽くすには、手間と時間がかかり大きなハードルが存在していると言える。
だが『閃光のハサウェイ』は、あえてその難題に真っ向から挑戦した作品だ。そもそもガンダムシリーズ第1作『機動戦士ガンダム』は、それまでのロボットアニメには無かった戦争や政治を織り交ぜた“リアル”な設定が、以後の人気を支える要素のひとつとなった作品。その後、様々なアプローチで『ガンダム』作品は作られたが、『閃光のハサウェイ』は「モビルスーツが実際に存在する世界」の“リアル”さをより深く描こうとする試みがなされ、実写的な演出を織り交ぜた緻密な作画や演出が徹底されている。
アニメ的“誇張”を徹底的に排除。抑制の効いた演出で広がる緊張感
そこで参照されている可能性があると思うのが、近年のハリウッド映画における映像スタイルだ。なかでも、『ダークナイト』シリーズや『インターステラー』(14)などを手掛けたクリストファー・ノーラン監督や、『007 カジノ・ロワイヤル』(06)からはじまるダニエル・クレイグの『007』シリーズに通ずる見せ方が印象に残る。
その雰囲気が伝わるのは『閃光のハサウェイ』の冒頭、特権階級だけが搭乗できるスペースシャトル「ハウンゼン356便」内での襲撃シーンだろう。「マフティー」を名乗るハイジャック犯が乗り込み、乗客たちを人質に取るという流れとなっているが、その前にまず豪華な船内の客席や食器などをさりげなく、それでいて印象的に写す。その優雅な場をハイジャック犯がかき乱すまでを、特定のキャラクターに寄ることなく、また音楽なども抑え気味にし、静謐かつやや距離を置いて俯瞰的に見せていく。マスクで顔を隠したハイジャック犯の行動を静かな緊張感と共に描く様子はノーラン監督『ダークナイト』(08)冒頭の銀行強盗のシーンを思い出す。
そして、ハイジャック犯の銃声でとある夫人はパニックで昏倒し、政府高官夫婦は傲慢な交渉で銃殺される。ここでの効果音は実写映画に近い乾いた銃声が響き、銃から吐き出された薬莢に残った熱がカーペットを焦がす。この描写1つが加えられることで、よりシーンが印象づけられていく。シンメトリーに近いアングルや、不必要にアップにしない画角など、抑え気味の見せ方は、ハリウッド映画的な実写に近い仕上がり。登場人物の心情に寄せる“誇張”を排することで、通常のアニメーションとは一線を画す演出を作り上げている。
その後、主人公であるハサウェイ・ノア(声:小野賢章)がハイジャック犯を制圧する、アクション映画的な流れになる。ここでは、ハサウェイの主観視点を織り交ぜつつ、スピーディーかつドライな視点でのカメラワークが展開。ここも、アニメーションらしいケレン味は徹底的に排除されている。この抑制の効いた見せ方による、ジワジワと広がる緊張感も実写的だと言えるだろう。

