山田杏奈が異色作『NEW GROUP』の撮影で発揮した、俳優としてのしなやかさ「役に集中し、テーマについて考えすぎない」
「怖がる演技は体力的に消耗する。それが生の緊張感として伝わるのかもしれません」(山田)
山田が語る通り、愛は現実を拡張したシニカルな寓話の中で、リアリティの担い手ともいえる。いわゆる恐怖演技についても、演出意図に合わせて演じる瞬間もあったものの、集団に取り込もうとする組体操の“群れ”から逃げ回るシーンでは山田自身の疲労が画面に臨場感をもたらした。「今回改めて、怖がる演技は体力的に疲れると思い知りました。驚いたり叫んだり、逃げ回ったりすると実際に息が切れて消耗します。それが生の緊張感として観客の方々に伝わるのかもしれません」。ちなみに同シーンでのグロテスクな組体操は、下津監督と日本体育大学が「どうしたら怖い動きになるか」を突き詰めて共同開発したものだという。完成形を目の当たりにしたインパクトもさることながら「リーダーの方が皆さんを率いている姿がとてもプロフェッショナルで、尊敬しました。本当に、日体大の皆さんのご協力なしでは成立しませんでした」と語る山田。「今回は特に“こうやって皆で一つの作品を作っていくんだな”と考えさせられる機会が多く、その中で自分はどういった役割を果たせるのだろうかと試行錯誤する時間でした」
ただ、山田と愛の“状態”が重なっても、“性質”が一致したわけではない。作品とは別に、役に対する“わからなさ”もあり続けた。愛には「丸いものを触ると落ち着く」傾向があり、球体への愛情(ともすれば執着)が奇妙な形で発現するシーンがいくつか用意されている。それらは理解を超えてくるものではあれど、袋小路に迷い込むことなく「まずはやってみる」精神で乗り切ったという。そうした体験をひっくるめて「とにかく新鮮でした」と笑顔で言い切れるところに、俳優・山田杏奈のしなやかさが光る。
「『おもしろかった』と思える作品に仕上がったことに驚きました」(山田)
挑戦と思考の連続だった現場を終えた彼女は、完成版を観た感想を「笑いました!」と語った。「演じている時は完成形の想像がまったくつかなかったので、『おもしろかった』と思える作品に仕上がったことに驚きましたし、1本に繋がった映画を観て初めてわかることもいろいろとありました。私はこれまでメッセージ性が強い作品にも出演してきましたが、撮影時は役に集中して、テーマについて考えすぎないようにしています。完成した映画を観て“集団行動って立ち止まって考えてみると異様だな、学校という一つの集団は特殊だな”と思わされました。下津監督の頭の中を改めて見せていただいた気持ちです」
下津監督をはじめ、これまで組んできた監督たちに「追い込まれた表情を見たくなる」と言われることが多いと明かした山田。「いつか監禁されない役をやってみたいです」と冗談めかして語る姿はなんとも微笑ましく、逆境でなにを見せてくれるかと映画人が期待を寄せるのもうなずける。そんな彼女に怖いものは?と聞くと、少しの間考えたのちに「税金」と答えた。なるほど、山田杏奈はフィクションに命を吹き込む俳優でありつつ、現実社会を生きる“人間”であり続けているのだ。
取材・文/SYO

