「スリラー」「バッド」…ランディスやスコセッシ、フィンチャーら有名監督が手掛けたマイケル・ジャクソンのMV集
ポピュラー音楽の歴史に名を残し、死後も多大なる影響力を誇る“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソン。史上最も売れた音楽家の1人であるマイケルの波瀾万丈な生涯をアントワーン・フークア監督が映画化した『Michael/マイケル』が6月12日より公開となった。音楽を聴くものから「総合芸術」へと高めたマイケル。歌や踊りといった数ある表現のなかでも、マイケル自身が「ショートフィルム」と位置付けていたことからもわかるように、重要視していたのがMV(ミュージックビデオ)だ。多くの大物監督が名を連ねたストーリー性がある“映画”と呼ぶべきMVの数々は、映画ファンならチェックしておきたい。
世界で最も有名なMV「スリラー」
まず紹介したいのが、マイケルのみならず音楽史に残るMV「スリラー」。『狼男アメリカン』(81)の変身シーンを気に入ったマイケルがジョン・ランディス監督にオファーを出した本作は、約14分にもおよぶ短編映画だ。
夜の森を恋人と歩いていたマイケルは、彼女にプロポーズをする。だがその直後、狼男へと変身し、彼女に襲いかかる――。これは実はマイケルと恋人が観ていたホラー映画のワンシーン。怖くなった彼女は映画館を飛びだし、マイケルはからかうように「スリラー」を口ずさみながら一緒に帰路につく。やがて2人が墓地の前を通りかかると、墓穴から次々とゾンビたちが出現し、取り囲まれてしまう。ついにマイケル自身もゾンビへと変貌し、踊りながら恋人を空き家へと追い込んでいく。
ホラー映画へのオマージュが盛り込まれた本作は、『狼男アメリカン』でオスカーを受賞した巨匠リック・ベイカーが特殊メイクを担当。黄色い縦目の狼男マイケルに加え、蒼白でギョロッとした目が特徴的なゾンビマイケルなど数多くのゾンビが登場するが、どれもテイストが異なっており、個性豊かなメイクは圧巻だ。
そんなゾンビ軍団がキレのあるダンスを踊りながら、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)さながらに襲来する様子はクールで、VHSが100万本以上売れたというのも納得。MVを販促用からアートへと昇華させたほか、メイキングドキュメンタリーの存在を一般化させるなど(舞台裏を捉えた「The Making of 'Thriller'」もリリースされた)、ポップカルチャーに多大なる影響を与えた。
マコーレー・カルキンも出演の「ブラック・オア・ホワイト」
そのランディス監督は「スリラー」だけでなく「ブラック・オア・ホワイト」のMVも手掛けており、こちらも11分というショートフィルムと呼ぶべき代物。
音楽を爆音で聴いていたことを父親から注意された息子(マコーレー・カルキン)が腹いせに爆音をギターでかき鳴らすと、その音圧で父親がアフリカに飛ばされてしまい、そこに現れたマイケルが次から次へと場所を変え、世界各国の人々と歌い踊るというコミカルな内容だ。
人間の顔が次々と切り変わっていく“モーフィング”といった技術を駆使して人種間の調和を示すほか、黒豹となったマイケルがストリートで破壊の限りを尽くす後半の“パンサー・パート”では人種差別への怒りを表すなど、多彩なアプローチで「人種や文化の違いを超えて、人はつながれる」というメッセージを表現した。
スコセッシの初MV作品となった「バッド」
代表曲の一つに挙げられる「バッド」のMVも18分にわたるショートフィルムで、『タクシードライバー』(76)のマーティン・スコセッシ監督が、初めてMVを手掛けている。『ハスラー2』(86)などのリチャード・プライスが、私服警官に強盗と間違えられて射殺されてしまったハーレム出身の少年の実話をベースに脚本を書き上げた。
寮制の名門高校に通うダリル(マイケル)は、休暇で地元ニューヨークへと戻るが、昔の仲間たちとの関係に居心地の悪さを感じるように。一方、不良仲間のリーダー、ミニ・マックス(ウェズリー・スナイプス)も変わってしまったダリルをよく思わず、挑発する。
これにカッとなったダリルは地下鉄で老人を襲うことで自分が未だにワルであることを示そうとするが、寸前のところで思いとどまり老人を逃す。仲間たちから「お前はもうワルじゃない」と突き放されるダリルだったが、地下鉄で「バッド」を歌いながら、自分らしくあることを示し、一目置かれる存在として認められる。
スコセッシ監督ならではのニューヨーク犯罪映画的雰囲気がモノクロで映しだされるドラマパートから一転し、カラーとなるダンスパートは『ウエスト・サイド物語』(61)の駐車場での「Cool」のシーンの影響を感じさせる。なお、撮影が行われた「ホイト-スカーマーホーン・ストリーツ駅」はマイケルがカカシを演じた『ウィズ』(78)でもエメラルドシティの地下鉄駅として登場したゆかりの地でもある。
