『卑劣な街』から『モガディシュ』『HUMINT/ヒューミント』まで。“物語の見届け役”が似合う俳優チョ・インソンの軌跡
まさか、あのチョ・インソンが“韓国映画界きっての活劇派”リュ・スンワン監督作品の常連俳優になるとは思わなかった。先頃、Netflixで公開されたばかりの『HUMINT/ヒューミント』(26)は、両者のコンビ3作目。ロシアで諜報活動を行う工作員たちの死闘を描いた硬派なアクションスリラーで、スンワン作品としては『ベルリンファイル』(13)の姉妹編にあたるような一作だ。主演のインソンは、かつて異国で協力者の命を救えなかった悔恨を背負うエージェントを演じ、北朝鮮からウラジオストクへ新たにやってきたパク・ジョンミン扮する敵国の諜報員と火花を散らしながら、最終的には共闘することになる。
この監督&主演コンビが最初に組んだのが、『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)。続く2作目が『密輸 1970』(23)。つまり、まだ5年ほどしか経っていない。そんな短期間でこれだけの成果を叩きだしてしまうのだから、相性のよさは想像以上だったと言えよう。ちなみに2人は同じソウル特別市カンドン(江東)区出身なのだという。
果敢にさまざまなジャンルに挑み、キャリアを重ねていく
ここで改めて俳優チョ・インソンのキャリアを振り返ってみよう。1981年7月28日生まれの彼は、1998年に広告モデルでデビュー。身長187cmという長身とスタイルのよさ、端正な顔立ちで注目を集め、1999年にドラマ「学校」シリーズで俳優デビュー。翌2000年にはスター養成番組とも言われたシットコム「ニューノンストップ」で人気を獲得。その後も多彩な作品に出演し、2004年の連続ドラマ「バリでの出来事」で大ブレイクを果たした…というのがキャリア初期の大まかな流れ。映画デビューは香港の鬼才フルーツ・チャン監督の異色作『トイレ、どこですか?』(02)で、この頃から意欲的なキャリアの重ね方を選んでいる存在ではあった。
韓国映画ファンにチョ・インソンの名が広く知られたのは、やはり『ラブストーリー』(03)と『卑劣な街』(06)の2作だろう。前者では、あくまで主演のソン・イェジンのサポートロールに徹した(それも彼の大事な個性なのだが、詳しくは後述)のに対し、後者の『卑劣な街』はまさしく「堂々の主演作」。それまでのさわやかなハンサム青年や、ロマンスドラマの主人公といったイメージを覆し、暴力と欲望まみれの世界に生きる暴力団の若きナンバー2を熱演した。
『マルチュク青春通り』(04)でクォン・サンウをバイオレンス青春ドラマに引き込んだユ・ハ監督のもとで見せた新境地だったが、正直もう少し年輪を重ねてから挑んだほうがよかったような役柄ではあった。しかし、役者として幅を広げたい貪欲さは十二分に感じさせた。ユ・ハ監督とは、続く時代劇『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』(08)でも組み、互いに新たなジャンルに踏み込んでいる。

