『卑劣な街』から『モガディシュ』『HUMINT/ヒューミント』まで。“物語の見届け役”が似合う俳優チョ・インソンの軌跡
『HUMINT/ヒューミント』でもタッグを組むリュ・スンワン監督との出会い
そしてコロナ禍を経て、リュ・スンワン監督とのコンビ第1作『モガディシュ 脱出までの14日間』に至る。1990年のソマリア内戦を背景に、韓国と北朝鮮の大使館員たちが首都モガディシュから決死の脱出を図る実録アクションドラマにおいて、チョ・インソンは韓国大使館の参事官役を力演。北朝鮮の参事官に扮したク・ギョファンと肉弾戦を繰り広げ、さらに壮絶なカーアクションにも挑むなど、アクション俳優としての力量も見せつけた。
続く『密輸 1970』でも、チョ・インソンは密輸ビジネスの元締めに扮し、見ごたえある対集団戦アクションを披露。長い手足で繰り出すダイナミックなアクションで、リュ・スンワン作品の新たな看板スターの座に躍り出た。
実は『モガディシュ 脱出までの14日間』、『密輸 1970』ともに、キャストのビリングとしては「二番手」に回っているのだが、そこにこそ俳優チョ・インソンの美意識が表れているのではないか。前者ではキム・ユンソク、後者ではキム・ヘスに花を持たせ、後輩俳優らしい奥ゆかしさを感じさせつつ、むしろ「自分は二番手のほうが輝く」と見切ったうえでの立ち回りにも思える。それは今回の『HUMINT/ヒューミント』でもひしひしと感じることだ。
ドラマを推進する主軸となるのは、北朝鮮の保衛局員パク(パク・ジョンミン)と、ロシアでエスコートサービスに従事する女性ソンファ(シン・セギョン)の悲恋のドラマだ。主演俳優たるインソンはハードボイルドな佇まいで、彼らを監視しつつ運命を左右する「第三者」のポジションを最後まで守りきる。
たとえば『ブレードランナー』(82)のハリソン・フォードがそうだったように、往年の探偵ノワールやアクション活劇の主人公と同じく、チョ・インソンにも「物語の見届け役」がよく似合う。『HUMINT/ヒューミント』は、ジャンル映画の粋を知り尽くしたスンワン監督なりの、俳優インソンの最良の活かし方を感じる逸品だ。
アクション俳優としての惚れ込みっぷりも過去最高であろう。物語上、全体的にはやや地味な展開が多いものの、主人公たちが人身売買組織の敵陣に殴り込むクライマックスは見ごたえ満点。インソンとジョンミンとパク・ヘジュンが、あんなにも見事な『レザボア・ドッグス』(91)のオマージュを見せてくれるとは!
なお、チョ・インソンの次回作は、やはりNetflixで公開予定の『Possible Love(英題)』。なんと巨匠イ・チャンドンの最新作で、チョン・ドヨンやソル・ギョング、チョ・ヨジョンといった名優陣と肩を並べる。『HUMINT/ヒューミント』に続き、チョ・インソンの役者としての野心をこれでもかと堪能できる年になりそうだ。
文/岡本敦史

