映画『#拡散』に込めた願いとは?白金監督と脚本・港岳彦が語る「なにを信じるか、どう生きるか」
「この物語は“地味”じゃないと伝わらない気がしていたんです」(港)
白監督から本作のテーマを聞いた時には「やりたくないと思いました(笑)」と振り返った港。「世界中みんなが経験したコロナ禍そのものではなく、ワクチンを扱うことはすごくセンシティブだと思いながら話を聞いていました。ただ、映画として表現することはワクチン、反ワクチンそのものではなく、過度に発達した情報社会においてなにを信じるのか、信じないのか、SNSが嘘と噂の増幅装置として機能してしまったいま、コロナ禍を通して様々な経験をしたいま、一度ちゃんと向き合ったほうがいいというのを描きたいとのことです。まさに自分のなかで問題意識としてすごくあったものなので、それならやってみたいと気持ちが動きました」と作品に参加する経緯に触れる。
白監督の企画、原案ということもあり、ディスカッションを重ねての脚本作りだったという。「日本人の監督だったらこんなふうに考えないだろうな、みたいなアイデアが出てくるのはすごくおもしろかったし、刺激的でした。やはり、外国の方との仕事はスケールが大きくなるという印象もあります。さらに、白監督が経済ジャーナリスト出身ということもあって、普段から経済のことをすごく考えているんです。日本の映画界には、そういう発想で問題意識を持っている方が僕の周りにはあまりいなかったので、すごく新鮮でした」と白監督とのやりとりでの印象を語る。
シナハンでメインロケ地となった富山県上市町に行くと聞いた瞬間に、感じるものがあったと話す。「学生時代に実習で富山県上市町に一週間くらい滞在して撮影しました。カメラで山をめちゃくちゃ撮っていたこともあって、土地勘とまでは言わないにしてもビジュアルがわかっていた。これはとても珍しいこと。『上市町』と聞いた瞬間に、なにを伝えたいのかも、ロケーションも、やりたいことも全部わかりました。こういうことは滅多にありません。オリジナルの場合は、自分の土地勘があるところで展開するというのは間違いなくあります。主人公たちの置かれた環境がわからないとイマジネーションが出てこないので。白監督は初めての富山でしたが立山連峰を見た瞬間に、『ここだ!』と思ったそうですし、撮影の宗さんから『上市町はどう?』という提案に僕が瞬時に『わかった!』となったのは奇跡的なこと」。
最初の設定では、夫を亡くした妻が主人公だったという。「僕はこの映画は重喜劇にすべきだと最初から思っていたのですが、夫を亡くした妻では物語がイメージできなくて。男性を主人公にすることで、妻を亡くしてネットでちょっと騒がれてうまくいって思い上がっていく姿がはっきりと浮かび上がりました。人間の愚かさやダメさ加減は、男性のキャラクターなら上手く描けるというのが出発点からありました。深刻な悲劇を経験したヒーローでは笑いにくい。妻を亡くしたけれど、実は妻のことについて思うところがあるという人間が、最後の最後に本当の意味で妻を失った悲しみに気づくという話にしないと物語が成り立たない気がました。その結果、割と平凡なキャラクターが主人公になったという背景があります。僕も思い上がりやすいし、調子に乗りやすいので(笑)、自分のわかる範囲のことを書きたいと持ったら、ちょっと自分に近しいキャラクターになってしまうというのもあって、どこにでもいそうな平凡なキャラクターが出来上がりました」と冗談混じりに物語の軸となる主人公、信治のキャラクター作りを解説。
港は「タチの悪い冗談みたいないまの社会を自由に書けるなんて、脚本家冥利に尽きます」と自身のインスタに投稿している。「ネガティブに聞こえるかもしれないけれど、ほかの脚本家だったら、もっとおもしろおかしくできたはずなんです。もっと派手な展開とか、ミステリー調にするとか。もちろんそれも考えましたが、実感のようなところにこだわっていくと、全部そうじゃないと感じてできなかったんですよね。でも、僕はこの物語は“地味”じゃないと伝わらない気がしていたんです。終盤に、赤間麻里子さんが演じるおばあさんの語りもものすごく平凡なことを言っています。めちゃくちゃ凡庸なことを言っているけれど、僕の脳みそだと、なにかエッジの効いたことを言うのではなくその逆だと感じています。ものすごくまともな普通のことを言う結末にいってしまったというのが、脚本家冥利に尽きると感じたところ。情報の戦場に新たな情報をぶち込むべきではない。もっとオーソドックスなところに引くことを考えた結果そうなったというところです。平凡な人が持っている体温。そういう人間の質感って信頼できる気がするんですよね。彼女以外の人間はロクな奴出てこないですしね(笑)」。
