ハードコアポルノと評されたオリジナル版から45年…芸術として蘇った世紀の大問題作「カリギュラ」、“究極版”までの道のり
「吐き気がするほど価値のない恥ずべきゴミ」「倫理的ホロコースト」「腐った汚物の入った桶」――。公開当時、これらの酷評が送られた“世紀の問題作”『カリギュラ』(79)が、“究極版”として新たに蘇り、現在公開中だ。オリジナルから約45年の月日を経て、真に完成したと言える本作。その完成に至る道のりを振り返っていきたい。
オリジナル版はなぜ“映画”として認められなかったのか?
男性向けポルノ雑誌として知られる「ペントハウス」の創刊者であるボブ・グッチョーネが、自ら46億円もの製作費を投じ、歴史上で最も残忍な暴君の1人として名前が挙げられるカリギュラの即位から没落までを描いた『カリギュラ』。
主人公カリギュラには『時計じかけのオレンジ』(71)のマルコム・マクダウェル、その妻カエソニア役にはヘレン・ミレン。さらに『アラビアのロレンス』(62)のピーター・オトゥール、『ミスター・アーサー』(81)のジョン・ギールグッドなど英国の大物を多数起用。さらにエロティック映画の巨匠ティント・ブラスを監督に据え、脚本には『パリは燃えているか』(66)のゴア・ヴィダルという豪華なスタッフをそろえた。
潤沢な資金に、盤石の布陣で映画は安泰かと思われたが、歴史を踏まえながら「権力の腐敗」を描いたヴィダルの脚本にブラス監督が手を加えたことをきっかけに軋轢が生じると、グッチョーネにも手を加えられたことで、ヴィダルがクレジットから自分の名前の削除を求めることに。
さらに編集作業の際にもグッチョーネとブラス監督の間にもエロティシズムをめぐって対立が生じ、官能表現を商業的に必然と考えるグッチョーネは、追加撮影を要求するも拒否されると、プロデューサー権限を振りかざし、自らペントハウスモデルを集めてセックスシーンを撮影。
物語の随所に性的なシーンを挿入するなど、スタッフ、キャストの意思を無視してやりたい放題をするなど、奇しくも“絶対的権力の腐食”というテーマを地で行く横暴ぶりを見せ、その結果として出来上がった作品は“ハードコアポルノ”では?と論争を巻き起こすことになった。
復元が試みられ続けた——45年間でのやり直しの歴史
『カリギュラ』は、セックスシーンがあるものもあれば、各国の検閲をクリアするために大幅にカットされたものなどが存在。どのバージョンよりも過激な210分のカット版が限られた人々にのみプライベート上映されたという都市伝説もあるほど、多彩なバージョンが作られた作品として有名だ。
そうした数々のバージョンが作られるなかで、作品をブラス監督の構想に沿った形で復元しようとする試みがこれまでに繰り返されてきた。
2008年にソフトとして発売されたインペリアル・エディションには、オリジナル版からポルノ要素をできるだけ排除し、未公開素材を使用しながら編集の組み替えでストーリーを整え直した、152分のバージョン(オリジナルは159分)が収録された。
また2010年代には、ドキュメンタリー映画『Mission: Caligula』(18)を手掛けたティント・ブラス監督の研究家であるアレクサンダー・トゥシンスキーが、ブラス監督の協力のもと、彼の意向に沿った形に作り上げようとしたが、最終的には権利の問題などで完成せず頓挫してしまった。
