『PROJECT Y』イ・ファン監督を韓国で直撃!「女性2人による、青春の欲望がぐつぐつと煮えたぎる物語を描きたかった」
「それぞれに自分の“Y”を完成させてくれればと思っています」
――色彩にはどんな工夫をされたのですか。
「色はたくさん使いたいと思いました。90年代の香港映画のルネサンス時代、『男たちの挽歌』『天若有情』『花様年華』『恋する惑星』といった作品を、韓国的に再現してみたいと強く思ったんです。だから色を積極的に取り入れ、そうした要素をもう少し洗練されたかたちで、ニュートロとして作品に落とし込めないかと考えました。2人の俳優にもよく似合うと思いましたし」
――タイトル『PROJECT Y』を見ると、赤とオレンジが基調になっていますね。赤いジャケットを着たシーンもありましたが、赤には特別な意味を込められたのでしょうか。
「赤は実はチョン・ジョンソさんのアイディアでした。もしドギョンの色を1つ決めるなら赤がいいのでは、と。そこで赤を多く使いました。時々黒も出てきますが、黒は赤を際立たせるための対比として、極端に見せたいときに使いました。基本は赤を主に据えたかったんです」
――音楽も独特で印象的でした。
「映像はニュートロですが、音楽はむしろ古い名作映画に出てくるようなジャズやブルースを取り入れてみようと思ったんです。オープニングとエンディングはそれを使いました。中盤の出勤シーンではニュートロに合う音楽を、さらにヒップホップなども用いました。作品の雰囲気を際立たせ、キャラクターをより説得力を持って観客に届けるために、それぞれのキャラクターに音楽ジャンルを与えたようなかたちです」
――それぞれのキャラクターに音楽があったのですね。
「そうです。たとえばト社長には独自のシグネチャー的な音楽をつけましたし、ミソンとドギョンにも5分ほど音楽が続く場面があります。2人の本当の連帯感を示したかったので、オーケストラを入れました」
――タランティーノ監督の影響も感じました。
「その通りです。本編に出てくるタイトルの色も『パルプ・フィクション』と同じです。映画監督ならみんなそうだと思いますが、私もタランティーノ監督が大好きなんです。金を掘り当てるシーンの俯瞰ショットも、オマージュ的に撮りました。丸ごと真似るつもりはなかったのですが、好きだからこそ自然ににじみ出たのだと思います」
――「この映画は時速150キロで突っ走るようなスピード感だ」と、BIFFのオープントークで語っていましたが、スピード感を出すためにどんな工夫を?
「現場ではとにかく長回しで撮っておこうと思いました。そのほうが編集で使いやすいので。編集では逆にテンポを速くし、カットを短くして人物から人物へとつなぎました。キャラクタームービーだと考えていたので、登場人物たちが金を追いかける流れを一気にまとめる編集をしました。その結果、初めての試みでしたが、狙いどおりのスピード感が出せたと思います。ただし、ガヨンの死を描く場面ではじっくり見せています。全体としてテンポとリズムのバランスを意識しました。ジャンル映画にふさわしいテンポ感を目指しました」
――前作も社会の片隅に生きる人々を描いていましたが、今回もそうした雰囲気があります。そうしたテーマを選ぶ理由は?
「やはり人間への関心からです。人間とは何か、という問いが常にあります。人は成長するために選択をします。その選択は正しいこともあれば間違うこともある。大きな傷を負うことも、達成感を得ることもある。だからこそ、人への関心は必然的に社会の底辺に生きる人々、欲望に翻弄される人々に向かっていくのだと思います。子どもの頃はそうした環境に少し触れていたかもしれません。いまは違いますが、不思議といつもそういう人々に目が行きます。ドキュメンタリーを観ても、そうしたキャラクターに心が引かれます」
――タイトル『PROJECT Y』の意味を教えてください。
「『プロジェクト』とは、ミソンとドギョンが事件を経験し、大きな決断を迫られることです。2人にとってそれは巨大なプロジェクトでした。“Y”は“Young(若さ)”、“Youth(”青春)”、“Yearn(切望)”など、様々な意味を込めました。ガヨンとの関係性も“くびき”から逃れられないものでした。このようにいろいろな意味があるため、観客がこの映画を観て、それぞれに自分の“Y”を完成させてくれればと思っています」
――ありがとうございます。では最後に、本作を日本の観客にはどのように観てほしいですか。
「人間の物語として観てほしいです。日本とか韓国とか、国境や国籍を考えずに。ただ欲望を抱えた人間が、極限状況でどんな選択をし、どんな感情を抱くのか。『もし自分だったら』と人間として向き合って観ていただければうれしいです」
取材・文/桑畑優香

