2026年で30歳を迎える横浜流星。『流浪の月』『正体』『国宝』…俳優として踏みしめてきたその軌跡をたどる
今年の顔とも言える躍進を果たした2025年
2025年は1月からNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」がスタートし、華々しい幕開けとなった。初めてのNHK、初めての時代劇映像作品にして、大河ドラマの主役に大抜擢。「烈車戦隊トッキュウジャー」から10年が経ち、横浜が再び1年以上かけて一つの役に向き合う作品に巡り会ったのだと思うと感慨深い。
横浜が演じた主人公の“蔦重”こと蔦屋重三郎は、天下泰平の江戸時代中期に、出版プロデューサーとして当時のポップカルチャーを牽引した立役者。大河ドラマのなかでは痛快エンタテインメントの色合いが濃い作品なので、蔦重のキャラクターも明朗快活で人情味たっぷり。失敗してもへこたれないたくましさを持ち、世のため、人のためにとことん突っ走る姿は誰もが応援せずにはいられない。そんな愛すべき太陽のような庶民のヒーロー像は、横浜が近年の出演映画で演じてきた陰のある役柄とは正反対とも言える。横浜にこの役をオファーしたNHKのキャスティングセンスもさることながら、べらんめえ口調のチャキチャキの江戸っ子の蔦重を生き生きとまっすぐに演じきった横浜は本作でまたもや新境地を拓き、役者としての振り幅の広さを印象づけた。
「べらぼう」が毎週放映されるなか、4月には『花束みたいな恋をした』(21)の監督、土井裕泰と脚本、坂元裕二のコンビによる『片思い世界』(25)が公開。本作で彼が演じたのは、子どものころに所属していた児童合唱クラブで無差別殺人事件が起こった際、たまたま外出していて現場にいなかったことに罪悪感を抱き続け、以来、優れた才能がありながらピアノを弾くことを封印している青年、高杉典真。彼は広瀬すず演じる相楽美咲の初恋の相手でもある。別の世界で生きている2人の心が通い合ったように感じられる終盤のシーンは感涙必至。広瀬との壮絶な関係性で強いインパクトを与えた『流浪の月』の亮とはまったく異なるキャラクターの彼が劇中で流す温かい涙は観客を優しく包み込み、深い余韻を残した。
そして6月、2025年に最も話題となった邦画といえる、李相日監督の渾身作『国宝』が公開された。半年が経ったいまなお全国で上映中の本作は、任侠の一門に生まれ、女形の歌舞伎役者になった主人公の立花喜久雄(吉沢亮)が、歌舞伎名門の御曹司である大垣俊介(横浜)と切磋琢磨し、やがて人間国宝になるまでの50年を描いた壮大な一代記。光と影のように生い立ちも才能も異なる喜久雄と俊介の関係性に焦点を当てたストーリーで、吉沢と横浜は1年以上かけて、歌舞伎の所作や舞踊の稽古に励んだ。相手の存在に刺激を受けつつ、芸を高め合っていった役作りの過程からして、まさに演じた役柄そのもの。劇中、喜久雄と俊介が2人の女形の競演で踊る華やかな「二人道成寺」や、生涯最後の共演作となることを互いに知ったうえで、2人が白塗りの化粧をボロボロにしながら迫真の芝居をするクライマックスの「曽根崎心中」のシーンでは、あたかも現実とフィクションが溶け合っているかのような臨場感に圧倒された。
色白の肌、涼やかな目元、甘い雰囲気を湛えた横浜の端正な美貌も歌舞伎界のプリンスというイメージにぴったり。生まれながらに歌舞伎役者としての将来を約束されていた俊介が、喜久雄の非凡な才能に打ちのめされていく姿には胸が締め付けられる。と同時に、劣等感に苛まれても、その気持ちをぐっと抑え、喜久雄が不安な時は逆に励ましてあげる優しさに俊介の生来の性格と育ちのよさがにじむ。喜久雄の恋人でありながら俊介を支える人生を選んだ春江(高畑充希)の心情が、短いシーンのなかで違和感なく理解できるのも、春江の前で初めて本当の思いを吐露した俊介の切実さがひしひしと伝わってくるからだ。「べらぼう」では江戸幕府老中の田沼意次役で登場し、蔦重役の横浜と共演する渡辺謙が、本作では俊介の父で上方歌舞伎の名門の当主、花井半二郎を演じているのも見逃せない。
最近では岡田准一主演、藤井道人監督作品で、11月から世界独占配信中のNetflixシリーズ「イクサガミ」のラストに横浜がサプライズ登場したことが大きな話題を呼んでいる。Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位を獲得した本作は、武士の終焉を迎えた明治時代の京都を舞台に、腕に覚えのある292人が賞金を得るために激しいデスゲームを繰り広げるエンタメ時代劇。横浜が演じる謎めいた最狂の剣士、天明刀弥は、原作小説を手掛けた直木賞作家、今村翔吾が横浜を想定してアクションシーンを執筆したというキャラクターだ。原作では最重要人物の一人であるだけに、第2シーズンの実現と刀弥の活躍に期待が高まるばかりだ。
こうして振り返ると、勢いのある波に乗って、次から次へと途切れることなく話題作への出演が続いた2025年は、“横浜流星の年だった”と言っても過言ではない。すでに来年の待機作に『流浪の月』の原作者、凪良ゆうの恋愛小説を藤井道人監督が映画化した、広瀬すずとのW主演作『汝、星のごとく』が控えている。現在、20代最後の年齢を全力でひた走り、ストイックに役者としての高みを目指す彼がどんな30代を迎えるのか。今後も様々な作品で、まだ誰も見ていない新しい横浜流星を発見することが楽しみでならない。
文/石塚圭子
