『鬼才の道』ジョン・スー監督が語る『返校』での成功と葛藤、そして創作者としての今後【インタビュー後編〈監督編〉】
クリエイター/フィルムメイカーとしての今
『鬼才の道』を完成させたあと、スー監督は台湾映画の最前線から少し距離を置いている。映画監督としてはひとまず休業中で、現在の主な仕事は予告編の編集や、別のフィルムメイカーによる脚本のコンサルタントだ。
「他人の脚本を読んでいると、今の台湾で面白い物語を作るのはどんどん難しくなっているように思います。市場が縮小しつづけるなか、オリジナリティのある映画を作る方法がわからない。だからこそ今は休みを取り、自分のやりたいことを冷静に考えたいのです」
キャリアのターニングポイントであり、同時に葛藤の原因となった『返校』については、「本当にストレスフルでしたが、もちろん好きなところも多い映画です」と改めて振り返った。「自分の意志で引き受け、すべての決定を自分たちで下した作品だから」と。
「僕はサイコホラーのような精神的恐怖を描いた作品や、暗示による恐怖の演出が好きなんです。だから、主人公のファン・レイシンが“もう一人の自分”として発砲したり首を切ったりする――彼女が直視していない事実を示唆する――場面は今でも気に入っています。原作のゲームを遊んだときに号泣したラストシーンも大好き。結末だけは絶対に変えたくないと思っていたし、撮影も本当に楽しかったです」
現在、スー監督は「僕にとって創作は遊び。楽しくなければいけないし、生活のための仕事とは明確に分けておきたい」と言い切る。「映画やドラマの仕事があるなら真剣に向き合おうと思いますが、台湾ですぐに新作映画を撮るつもりはないんです」
また、海外進出の可能性については「チャンスがあれば挑戦したいですが、今はまだなんとも言えません」と話す。『鬼才の道』が高評価を受け、すでにアメリカの製作会社から問い合わせがあったそうだが、それでも今は「映画監督を絶対に続けなければいけないとも考えていない」という。
「子どもの頃からそうだったように、僕は今後も自分が面白いと思えることはなんでもやると思います。それはゲームや小説、VRかもしれないし、テレビドラマかもしれないし、まだ想像もつかないものかもしれません」
創作者ジョン・スーの原点にして、きっと今もなお根底にあるものは「遊び」なのだ。「たとえ映画のように大金を投じないとしても、面白いストーリーを語り、楽しく遊ぶことはできるはず」――いつか製作されるであろう新作を、今は気長に待つことにしよう。
取材・文/稲垣貴俊