『ジョーカー2』はなぜ酷評?押井守が分析する、観客が許せない改変と映画をつくる“動機”【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」第3回後編】
独自の世界観と作家性で世界中のファンを魅了し続ける映画監督・押井守が、Aだと思っていたら実はBやMやZだったという“映画の裏切り”を紐解いていく連載「裏切り映画の愉しみ方」。第3回は、トッド・フィリップス監督がホアキン・フェニックスを主演に迎えてバットマンの宿敵・ジョーカーの誕生を描く『ジョーカー』(19) 。前編では「ジャンルもので文芸をやると大体ダメというのが私の持論で、この映画はその典型!」と語っていた押井監督。後編ではなにを語るのか?
「多くの人が、“あのジョーカー誕生の前日譚”と思ったんだろうね」
――世界中で大ヒットした『ジョーカー』を押井守はどう観たのか?後編では続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24)を含めて語っていただきます。ちなみに今回の“裏切り”は悪い意味での裏切りでした。
「だから、私はMAXのテロリストが見たかったの!ジョーカーなら究極のテロリスト足りえたんです。『ダークナイト』(08)以上のジョーカーを期待しちゃったからなんだけど。麻紀さんの監督へのインタビューによると、最初からそういう映画をつくるつもりはなかったそうだけど、それでもやっぱり期待してしまうじゃないの!私に言わせれば、そういうことを無視した企画が通ったこと自体が信じられない」
――でも押井さん、そういう期待を裏切ったところにこの作品のおもしろさがあるんじゃないですか?
「それは擁護しているだけです。続編は不評だったんでしょ?私は観てないけど突然、ミュージカルになってしまうと聞いてますよ。2本目でフリーハンドを手にしたにもかかわらず、なぜそんな映画をつくってしまったのか?やることがなかったんですよ。やりたいことは全部、1作目で撮っちゃったから」
――監督のトッド・フィリップスは1作目の時、「続編をつくるつもりはない」と言ってました。でも、驚くほどヒットしちゃったからいまのハリウッド事情ではつくらざるを得なかったのかもしれません。
「だろうね。1作目でもジョーカーというキャラクターを裏切り的に使って大ヒットさせたんだから、2作目も同じように裏切ろうと思ってミュージカルにした。でも、その裏切りをファンは許さなかったということ。おそらく確信犯的にやったんじゃないの?」
――かもしれませんね。多くの人はジョーカーが社会に反旗を翻すような映画を期待していたんだと分析している人もいましたが、そもそもそういうヒーローを描くつもりでジョーカーを出したわけではないので、監督の意図がわかってない人がたくさんいたんだなと思いました。
「多くの人が、“あのジョーカー誕生の前日譚”と思ったんだろうね。でも、あのキャラクターではヒーローはもちろん、アンチヒーローにもなれませんよ」
――押井さんは1作目、劇場で観たとおっしゃってましたね。
「そうだったっけ?みんなが『凄い』とあまりに言うから観に行ったのかもしれない。どちらにしろ二度、観たい映画ではない。
私の好きな映画の基準のひとつは、もう一度、観たくなるかどうかなんだよ。二度観たくないのは、どんな傑作であっても私にとってはいい映画とは思えない。何度でも繰り返し観たくなる映画を私は評価する。どんな面妖な映画であっても、あるいはしょうもない映画であってもついつい何度も観ちゃう映画、ありますから。そういう映画には必ず、どこかにカタルシスがある。『燃えよドラゴン』(73)なんてもう20回は観ているからね。いい映画ではないんだけど、時々観たくなってしまう。なぜならアクションの快感があるから。カタルシスもあれば快感原則にもちゃんと倣っているからね。アクション映画というのはダメダメであってもどこか1か所くらいは見どころがある場合が多い。そういう作品は頭の5分を観れば大体わかる」
――たった5分で?
「そうだよ。宮さん(宮崎駿)なんてスチール写真を3枚見ただけでおもしろいか、おもしろくないかがわかると豪語していたから(笑)。私は頭の3~5分は必ず観て、そこでダメだと思ったらもう観ない。最近は早送りしてアクションシーンだけ観たりするけど、ダメなものはやっぱりダメです」

 
             
                     
               
             
               
               
               
                 
               
                 
                 
       
     
         
         
         
         
         
         
         
             
             
            