木村拓哉、『TOKYOタクシー』シリーズ化に「やろう」と意欲!キャスト陣の山田洋次監督への敬意があふれた初日舞台挨拶
山田洋次監督の91本目となる最新作『TOKYOタクシー』の初日舞台挨拶が11月21日に丸の内ピカデリーで開催され、倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜、神野三鈴、山田監督が出席。本作のイメージカラーであるピンクのテープカットで出発式を行い、晴れやかな笑顔で公開の船出を祝った。
本作は、昭和、平成、令和と日本に生きる人々を描き続けてきた山田監督が刻々と変化する東京を舞台に人生の喜びを謳いあげるヒューマンドラマ。山田組には欠かせない倍賞が終活に向かうマダムの高野すみれ役、木村が鬱々とした日々を送るタクシー運転手の宇佐美浩二役を演じている。この日の模様は、全国220館の劇場でも同時生配信された。
上映後の会場から、大きく、温かな拍手を浴びて登壇したこの日のメンバー。「すごくドキドキしていました」という倍賞は、「今朝、家を出て振り返ったら、富士山がとてもよく見えた。『TOKYOタクシー』はその富士山を越えるような、すばらしい映画になったんじゃないかなと自負しています」と笑顔。同意するように会場から大きな拍手が上がるなか、木村は「受け取ってくれて、本当にありがとうございました」と挨拶。「本日をもって、『TOKYOタクシー』が客席の皆様のものになる。その瞬間を見届けにきました」と会場を見渡した。「僕は老監督ですから」と切り出した山田監督は、「大勢の俳優さん、スタッフのみんなが僕のことを気遣ってくれた。そういう想いの丈が、この映画になった。もしこの映画にいいところがあるとすれば、この映画に関わった俳優さん、スタッフのみんなの想いの丈が伝わったのではないか」とスタッフ、キャストに感謝を伝えていた。
心と力を合わせ、“人生を変えるような旅”を紡いだメンバー。撮影現場では、山田監督のもとそれぞれが宝物のような経験をしたと声をそろえた。倍賞は「私の撮影初日は、柴又ロケから始まったんです。『男はつらいよ』が柴又で終着を迎えて、『TOKYOタクシー』の初日は柴又の門前から始まった。終わりと初めが、柴又にあったこと。それは生涯忘れられない、自分の思い出。新たなスタート地点に立っていた」としみじみ。
浩二の妻・薫役を演じた優香、娘の奈菜役を演じた中島も、本当の家族のような空気感のなか撮影をしたと話していたが、木村は「『TOKYOタクシー』のクランクインは、宇佐美家の生活空間から。山田監督の撮影手法で一番驚かされることは、以前自分が参加させていただいた時代劇もそうなんですが、台本の1ページ目から撮影をしていくんです。台本の表紙をめくって、シーン1のト書きから撮影が始まる」と順撮りで進められることを明かしつつ、「家族3人でいる、リアルな温度感を監督に調節していただいて。僕や奥さん、娘の3人で、あの空間で、その温度をずっと探っていた」と、気持ちを通じ合わせながら家族の空気感を作っていったという。すみれの母である信子役の神野は、山田監督作品に出演することが「夢だった」とのこと。「監督のエネルギー、熱量、一言、一言があまりにも豊かだった。豊かで濃密な空間のなかで、『これが山田組なんだ』と背筋が伸びる想いがしました。うれしくて、ワクワクして、幸せでした」と感動をあふれさせていた。
また奇跡の出会いを描く映画の内容にちなみ、「忘れられない出会い」について告白する場面もあった。「いっぱいあります」とうなずいた木村は、「きっと今後も忘れることはないだろうという出会いは、今回のこの作品自体。すごく恵まれていることに、観終わった皆さんの前に立たせていただける。そうした時に、皆さんの表情、目がすごく温かい。それは忘れられないものですし、こういう想いをまたしたくて、自分は違う作品の現場に赴く。(これからも)そうなれたらいいなと思います」と観客との出会いについて言及。
倍賞は、「私は84歳になるんですが、178本の映画に出演させていただいた。そのうち70本が、山田さんの作品」とキャリアを回顧。初タッグとなる『下町の太陽』(63)の撮影前に、ほかの映画の現場に入っている山田監督のもとに挨拶のために足を運んだことをよく覚えているそうで、「山田さんがハンチングを被っていらして、そのハンチングが落ちそうになりながら『よろしくお願いします』とお辞儀をして。その出会いが、いまの私を形作っている。いまこうして皆さんの前でお話しできるのも、お芝居ができるのも、木村拓哉さんとお会いしたのも、山田さんのもとでしっかりとお仕事をさせていただいたから」と山田監督との出会いこそ、奇跡のようだと語る。山田監督は「倍賞さんは、松竹の輝ける、まったくいままでにいないタイプの新しいスターだった。『映画を撮るなら、あの人を主役にしたい』と若い監督の誰もがそう思っていた。僕にとっては、その時からすでに憧れの人だった」と倍賞への想いを口にし、これには倍賞も「どうしよう…。ありがとうございます」と照れながら感激しきりだった。
すみれの若いころを演じた蒼井も「山田洋次監督」と回答し、「『学校』のオーディションに行かせていただいて。ダメだったんです。落ちちゃったんです」と苦笑い。「ずっと山田監督の作品が大好きで、その後も毎回、映画館で拝見していて。自分はあまりお芝居や、この世界に向いていないかもしれないと、心が追いつかなくなったことがある。立ち止まろうと思って、仕事を休んでいた時期がある」とつらい時期を打ち明けながら、「1年弱経って、やっぱりお芝居が好きかもしれない、どうしよう…と思っていた時に、山田監督から『おとうと』のオファーをいただいた。お芝居の世界に、また連れて行っていただいた。とても感謝しています」と山田監督は恩人でもある様子。さらに「『TOKYOタクシー』というタイトルです。あと46の道府県があります。大阪タクシー、新潟タクシーもできる。北海道タクシーもできる。このチームでやりたい」と茶目っ気たっぷりな笑顔で山田監督による続編を期待し、会場からも拍手が上がるなか、木村は「なら、やろう」とニヤリ。観客は一層、大きな拍手で賛成の意志を表していた。
またすみれの夫・小川に扮した迫田も、「俳優を志したきっかけは、21歳で山田洋次監督とお会いした、奄美大島の夏。そしてこの作品のプロデューサーとも、同じ時期に出会った。20数年経って、同じ作品に携われた。これはまさに奇跡の出会い」と山田監督作品への思い入れを吐露。山田監督は、「いい役者に出会えるかということで、監督の運命が決まるようなもの。もちろん芝居のうまい、下手はあるけれど、人間そのものに魅力がある人でなければダメ。長く見ていたい、いつまでも見ていたいというのが、いい役者。今回はステキな俳優さんたち、これ以上言うことはないという俳優さんたちに恵まれた」と目尻を下げながら、役者陣への感謝と愛をにじませていた。
舞台挨拶が行われるごとに、ハイタッチを交わしてきた倍賞と木村。木村は「比べものにならないような経験値がありながら、いつも最終的に笑顔で終わってくださる方。疲れていても、もし大変なことがあったとしても、倍賞さんはすべてをほわっと包んでくれるような笑顔で、いつも向き合ってくださる。毎日、心地よい魔法をかけていただいているようだった」と倍賞と過ごした時間を魔法に例えた。倍賞は「本当に真面目な方」と改めて木村の印象を口にし、「私が心を投げかけても、ちゃんと受け止めてくれることがわかって。とても幸せでした。(タクシーの)バックミラーに、すごくステキな目が映るんです。その目に力づけられて、毎日楽しくお芝居ができた。『この人だったら、すべて言ってしまおう』という、すみれ(の気持ち)がどんどん出てきて。大変、楽しい毎日を過ごさせていただきました。ありがとうございました」と頭を下げた。
舞台上でも2人でハイタッチをする場面もあり、会場も大盛り上がり。「何度か乗りたくなるタクシーになっていたら」と希望した木村は、監督、キャスト陣の全員が降壇するのを見送り、最後に退場。その紳士的な姿にも、会場から大きな拍手が上がっていた。
取材・文/成田おり枝
