愛も罪も分かち合い2人でモンスターと化す『愛はステロイド』…当事者から観た女性たちの反逆と“非規範”的な美しさ
『テルマ&ルイーズ』との共通点と違い
対照的で、同時に似通ってもいる2人の出会いは、暴力に始まり、またその愛の進展も暴力と共にあった。暴力は本作にとって核心だ。本作はジャッキーがステロイドの使用を繰り返すあまり暴力衝動を抑えられなくなる様、あふれる力が暴走する様を描いており、すなわち暴力の行使者を女性に設定してはいるのだが、同時に女性がいかに暴力に、それも有害な男性性という暴力に晒されやすいかを告発してもいる。女性に暴力を振るう男性への反逆を行う女性たち、彼女たちの逃避行を描いているという意味で、本作は正しくフェミニズム映画の金字塔『テルマ&ルイーズ』(91)の系譜に連なっているのだ。
たとえば彼女たちの出会いでは、ジャッキーが男を殴り、彼女は殴り返され、ルーが慌ててジャッキーを連れて逃げだしていた。男はジャッキーをナンパしていて、ジャッキーと共にいたルーを“ダイク”(女性同性愛者に対する侮辱語)と嘲ったのである。すなわち性差別的で同性愛嫌悪的な男への反逆が、彼女たちの始まりだった。
また2人の関係と道筋を大きく狂わせることになるのも、有害な男性性への反逆である。ルーの姉が夫によるDVのために病院に運び込まれ、激怒したルーを見て、あたかもルーの代わりに復讐を果たすかのように、ジャッキーがルーの姉の夫を殺すのだ。事件における2人の様子は、『テルマ&ルイーズ』とは好対照だ。『テルマ&ルイーズ』の女性たちが追い詰められ、最終的に2人で共に崖から車ごと落ちていったのとは対照的に、ルーたちは力を合わせてDV夫の死体を載せた車を崖から突き落とすのだから。
かつて描かれなかったもの――強固な男性社会で力を合わせて反逆する女性たちが生き延びる姿、さらにその彼女たちが恋愛関係にある姿――がここにある。明らかに『テルマ&ルイーズ』を彷彿とさせるシーンを含んだルーとジャッキーの反逆は、クィアな女性たちが受けてきた抑圧の歴史にも向けられているのだ。