おわかりいただけただろうか…中村義洋監督と「オウマガトキFILM」ヒロが語り合う『ほん呪』『残穢』から『見える子ちゃん』まで
「ホラーはお客さんの反応を見られることが一番うれしい」(中村)
――ちなみに、お2人が一番怖かったホラー映画はなんですか。
ヒロ「やっぱり『リング』ですね」
中村「僕もそう。本当に嫌だった」
ヒロ「ですよね。あれを一人で観るの、いまだに嫌ですもん…」
中村「僕は、『リング2』の冒頭で、井戸の中から引き上げられた貞子について説明するシーンも嫌でした。30年前に落ちたのに死んだのがつい1、2年前だった…ということが明かされるんだけど、そんなに井戸の中にいたら念写もできるようになるだろうなって自然に思えてきて。あの最初のやりとりはピカイチでヤバかったです」
――ヒロさんは中村監督の『残穢』を好きなJホラーとしてあげていますね。
ヒロ「はい、そうです。土地にスポットを当てて、そこには前に誰が住んでいて、その前には誰が住んでいて…っていう視点で進んでいくわけですけど、その着点眼も新鮮でした」
中村「原作の、調べていく設定自体がいいんだよね」
ヒロ「しかも、霊がポンポン出るような物語ではないから映像的に地味になりがちなんですけど、ものすごくテンポがよくて引き込まれていきました。『リング』、『仄暗い』、『残穢』の3本は僕にとってのJホラー3大巨頭です」
中村「『残穢』の経験は僕にとっても大きいですね。『残穢』も最初は『ほん呪』と同じようなテンポがいいと思って、サクサク編集していったんですけど、『これはドキュメンタリーではないから、その編集は違うんじゃないか?』ってプロデューサーに怒られて。そこで『たしかに』と感じて、霊が出るまでをじっくり繋いでいくことができました」
――中村監督はM・ナイト・シャマラン監督がお好きだと伺いましたが、『見える子ちゃん』ではシャマラン監督の『シックス・センス』(99)も意識されたんじゃないでしょうか。
中村「もちろん意識したし、観直しましたね」
ヒロ「ただ、『見える子ちゃん』の原作を読んでいる方にはどんでん返しのうちの一つは効かないから、その点は苦労されたんじゃないでしょうか?」
中村「そうそう。原作では、“ある人物”が霊であるというオチを第1巻で早くもバラしちゃっていたから、脚本を2、3年かけて書き終わって、泉先生とお会いした時には『なんでこんな勿体ないことをしたんですか!』って言っちゃいましたよ(笑)」
――泉先生はどんなリアクションでした?
中村「『最初から人気があったわけではないし、何巻も続くような作品になるとは思っていなかったから、大玉を次々に出していかなければいけなかったんです』と仰っていました。それを聞いて、連載漫画の方法論として納得はしましたけど、映画だったら強いオチになるのに勿体ない!とはいまだに思いますね(笑)」
ヒロ「完成した映画に仕掛けられた、さらに上の階層のオチも衝撃的で、鮮やかでした。原作ファンの方でも、あれは予想できないと思います!」
中村「ありがとうございます!」
――ちなみに中村監督は一時期、ホラー映画と距離を取られていたと伺ったことがありますが、現在はどのような心境なんでしょうか。
中村「『残穢』で“ホラーはやっぱり楽しい!”ってなってからは全然OKで、むしろどんどん撮りたいと思っています。ただ『ほん呪』に初めて参加した1999年から、2004年ぐらいまでは若手監督の仕事ってホラーしかないような時代だったから、ホラー作品にギャグの要素を入れたりして変化をつけていたんですよね。でも、これはお客さんに失礼だなと思ってやめたんです」
ヒロ「どうして失礼だと思われたんですか?」
中村「お金を払って怖がりに来ているのに、笑わせてどうするんだ?と感じたんです。それに、もともとホラーを専門にしていたわけではないので、ホラーを撮る時には自分のなかのギアチェンジが必要で。2005年に非ホラーの『ルート225』という作品を撮った時、久々に撮影現場で午前中から快調だったんです。それで『ホラー映画をやる時、どれだけ自分の身体に負荷をかけていたんだろう』と気づいてしまって。ただ、『ほん呪』をやっていた辛い時期の僕の作品をずっと観てくださっていた小野不由美さんが、ご自作の『残穢』が映画化される際、監督に僕を指名してくれて。最高にうれしいオファーだったからお引き受けしたんですけど、あれがいい意味でリハビリになりました」
――身体に負荷をかけずに撮れるようになったんですね。
中村「『残穢』以降は大きく変わったと思います。『ほんとにあった!呪いのビデオ100』のときも2年ぐらいかけてホラーのギアに持っていくところから始めたんですけど、決定的だったのは今作の初号試写ですね。『残穢』の初号試写の時に隣で観ていた奥さんの反応が楽しかったから、僕はいつも初号試写に彼女を呼ぶんです。そしたら、今回の『見える子ちゃん』でも、例のクライマックスの霊を観ながら『う~』とか『あ~』とか『うわ~』とか言っていて(笑)。その反応が作り手として最高にうれしかったので、これからはホラーもどんどん撮っていきたいですね!」
取材・文/イソガイマサト
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