“芸術は世界を変える”カンヌで示された映画の力。パナヒ監督が三大映画祭制覇の快挙、アワード戦略が得意なNEON、MUBIの躍進も
第78回カンヌ国際映画祭が現地時間5月24日に閉幕し、イランのジャファール・パナヒ監督による『It Was Just An Accident』が最高賞パルム・ドールを受賞した。この受賞により、パナヒ監督はベルリン、ヴェネツィアを含む世界三大映画祭すべてで最高賞を制覇する史上4人目の快挙を達成した。
ジャファール・パナヒ監督が三大映画祭制覇の快挙!第78回カンヌ国際映画祭のおもな受賞結果
パナヒ監督の三大映画祭制覇の軌跡は、1995年に『白い風船』でカンヌ国際映画祭の新人監督賞にあたるカメラ・ドールを受賞してデビュー。2000年に『チャドルと生きる』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、2015年に『人生タクシー』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞し、今回のパルム・ドールで三大映画祭の最高賞をすべて手中に収めた。受賞作『It Was Just An Accident』は、かつて不当に投獄された人々が彼らを拷問した看守への復讐を誓うスリラーで、プレミア以降好評を博していた。パナヒ監督は受賞スピーチで「イランにとって最も重要なのは自由を取り戻すことだ」と述べ、会場から大きな喝采を浴びた。
今回の受賞には特別な背景がある。パナヒ監督は2010年、第63回カンヌ国際映画祭の審査員に選ばれていたが、同年3月にイラン政府により拘束されたため欠席を余儀なくされた。その際、パナヒ監督の盟友アッバス・キアロスタミ監督の『トスカーナの贋作』(10)で女優賞を受賞したジュリエット・ビノシュをはじめとする各国の映画人が、言論の自由の名の下にイラン政府への抗議とパナヒ監督の解放を要求していた。15年を経て、今度はビノシュが審査員長として、パナヒ監督に最高賞を授与するという運命的な巡り合わせとなった。審査員長のビノシュは、この作品を「今日の世界で必要とされる"抵抗、生存"という想いから生まれた作品。パナヒ監督の出自により、とてもヒューマンであると同時に政治的な作品になっている」と評した。
次点グランプリには、ノルウェーのヨアキム・トリアー監督の『Sentimental Value』が選ばれた。トリアー監督は、この賞を自身の俳優であった祖父に捧げたいと述べ、劇中でステラン・スカルスガルドが演じた映画監督がカンヌ国際映画祭で受賞した経歴を持つキャラクターだったため「運命を感じる」と感想を語った。
審査員賞は、スペインのオリヴァー・ラクセ監督による『Sirat』と、ドイツのマシャ・シリンスキー監督の『Sound of Falling』の2作品が受賞した。監督賞はブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオが『The Secret Agent』で受賞し、男優賞も同作に主演したワグネル・モウラが受賞した。今年はウォルター・サレス監督の『アイム・スティル・ヒア』(8月8日公開)が、第97回アカデミー賞でブラジル映画史上初の作品賞ノミネートを含む3部門に名を連ね、国際長編映画賞を受賞、カンヌ国際映画祭に併設された映画マーケットもブラジル映画を特集した。
国際映画批評家連盟(FIPRESCI)は、コンペティション部門からフィリオ監督の『The Secret Agent』、「ある視点」部門からハリス・ディキンソンの初監督作『Urchin』、「批評家週間」部門からフランス在住の日本人監督、瀬戸桃子の『Dandelion's Odyssey』を選出した。