綾野剛「タクミって呼んじゃった」北村匠海&林裕太と語る『愚か者の身分』で過ごした熱き日々

綾野剛「タクミって呼んじゃった」北村匠海&林裕太と語る『愚か者の身分』で過ごした熱き日々

映画『愚か者の身分』(公開中)の公開記念舞台挨拶が10月25日にTOHOシネマズ 新宿で行われ、北村匠海林裕太綾野剛山下美月、永⽥琴監督が出席した。

『愚か者の身分』の公開記念舞台挨拶が行われた
『愚か者の身分』の公開記念舞台挨拶が行われた

西尾潤による第2回大藪春彦新人賞受賞作を映画化した本作。一度入ると抜けられない闇ビジネスの世界を舞台に、運命に翻弄されながらも生き抜こうとする若者3人による、恐るべき3日間の逃走劇を描く。とある犯罪組織の手先として戸籍売買を行うタクヤ役を北村、タクヤに誘われてこの世界に足を踏み入れた弟分のマモル役を林、タクヤをこの道に誘った兄貴的存在であり、裏社会の運び屋の梶谷役を綾野が演じた。第30回釜山国際映画祭では、北村、林、綾野の3名が揃ってThe Best Actor Award (最優秀俳優賞)を受賞した。

北村匠海、「すごく感謝の多い旅だった」
北村匠海、「すごく感謝の多い旅だった」

主演の北村は「この映画で僕らが見てきた景色は、いままでの自分の俳優人生のなかでも初めての経験もあったり、すごく感謝の多い旅だった気がしています。これからは観てくれた皆さんのもの。この映画を観て、皆さんの人生が少しでも変わってくれるといいなと思います」と挨拶。上映後の会場から大きな拍手を浴びた。欲望渦巻く眠らない街、新宿・歌舞伎町から大金が消えた事件をきっかけに、登場人物たちの運命が激しく揺れ動いていく姿を描く。映画の舞台ともなった歌舞伎町で舞台挨拶が実現し、北村は「ここに立つ意味が、この映画にはあると思います」としみじみ。

林裕太、「寂しいような、うれしいような」と吐露
林裕太、「寂しいような、うれしいような」と吐露

「撮影の日々が楽しかった」と振り返った林は、「歌舞伎町のシーンでは、一緒に缶蹴りをした」と北村と笑顔を見せ合い、「あんなに本気で、歌舞伎町で缶蹴りをするなんて思っていなかった。そんな日々が映像となって、皆さんにようやく届けられる。寂しいような、うれしいような感じがします」といまの率直な感想を吐露した。

歌舞伎町での撮影を回顧した綾野剛
歌舞伎町での撮影を回顧した綾野剛

綾野は「(撮影)初日が歌舞伎町でできることも、感慨深かったです。『新宿スワン』のあたりとは、空気が違った」と歌舞伎町の変化も体感したという。タクヤが実際に男性と接触をする際、“オトシ”を担う仕事仲間の希沙良役を演じた山下は、「あっという間に終わってしまった。風のように過ぎ去った」と撮影を回顧。「北村さんと林さんが、裏でもすごく仲がいい。それこそ兄弟に見えるんです。楽屋とかでもソファーで隣に座ってゲームをしていたり、役を超えて繋がっていらっしゃって、すごくステキだなと思いました」と2人の関係性に心を掴まれたとのこと。すると北村が「なついちゃってね」、林も「なつかせてもらいました」と続くなど、さっそく息ぴったりの様子を見せて会場を笑わせていた。

山下美月がお気に入りのシーンは?
山下美月がお気に入りのシーンは?

好きなシーンに話が及ぶと、山下が「タクヤとマモルがアジの煮付けを食べているシーン」をピックアップ。「この映画はヒリヒリとした痛みが続くような時間が長いんですが、この2人が一緒に食卓を囲んでいる風景には、温かい気持ちになった」と幸せについて考えるようなシーンだったと話す。さらに北村の料理上手な一面も知ったというが、北村は「魚をさばいたことがなかった。この映画に入って一番始めにやったことが、魚をさばく練習。これでさばけるようになりました」と本作をきっかけに、プライベートでも魚をさばくようになったという。永⽥監督は、「すごく器用。すぐにできる。おにぎりもすごく上手。『ほい、できました』みたいな感じ」と北村の器用さに惚れ惚れとしていた。

綾野剛は、汗も自在に変化させる!? 俳優力に驚き
綾野剛は、汗も自在に変化させる!? 俳優力に驚き

林は、綾野の特殊な俳優力に驚いたシーンがあるとコメント。林は「剛さんは、汗を自力でかくことができる」と綾野は芝居で汗を出すことができると切り出し、「汗の質も変えられる。梶谷が、タクヤのある状態を見て汗をかくシーンがあるんですが、そこではヌメッとした緊張感のある汗。逆に車で逃げているシーンは、爽やかな汗をかいている。この世に、そこまで操れる役者がいるんだと。改めて、梶谷の汗を観直したい」と大きな見どころだと熱を込めた。すると「めちゃ恥ずかしい!」と大照れだった綾野は、「メイクさんの力も借りながら、ぬめりとサバサバ感を変えています」と裏話を披露。この日は綾野がステージに上がった暑さで汗をかき、上着を脱ぐひと幕もあったが、綾野は「いまは増量期なので、どうしても汗をかいちゃう。体調が悪いわけではないので、安心してください」と笑顔で呼びかけていた。

北村匠海&綾野剛、撮影を振り返って大笑い!
北村匠海&綾野剛、撮影を振り返って大笑い!

終始、林、そして林が演じたマモルに愛情を傾けたのが、北村だ。北村は「マモルがよくて、よくて…」と目尻を下げ、「裕太だからこそ、描けたマモル像だなと思う。“守る”という漢字のごとく、小さな感情や色々な瞬間など、マモルという像を守り続けてくれた。僕は、この映画の最後のマモルの表情に救われました」と林を称えた。林は「聞きましたか…」と観客にアピールし笑いを誘いつつ、「本当にうれしいです」と喜び爆発。また城定秀夫監督作品『悪い夏』では北村が守(マモル)という役名のキャラクターを担っており、Netflixシリーズ『地面師たち』では綾野が拓海(タクミ)という役名のキャラクターを担っていたという話を繰り広げるなか、綾野が「撮影中に、タクヤのことをガチで『タクミ』と呼んで芝居をしてしまった」と告白。北村が「緊迫したシーンで、すごくいい表情をしているのに『タクミ』って…。(本当の役名は)『タクヤです…!』と(思っていました)」と懐かしむと、大笑いした綾野は「俳優人生で初めての経験でした。本人の名前を呼んでしまいました」と打ち明けていた。

北村匠海、林裕太への想いをあふれさせた
北村匠海、林裕太への想いをあふれさせた

最後の挨拶でも北村は、林とマモルへの想いをあふれさせた。「僕と剛さんのなかでは、この映画はマモルのものである、林裕太のものであるとずっと話してきた。僕らは役者として、言語化できないようなものを授け合いながら、最後は裕太にすべてを任せた映画になりました。本当に彼がマモルでよかった。このキャストでこの映画を作れたことを、とてもうれしく思います」と語り、加えて「永田監督の、監督としてのすばらしさが見つかる映画。釜山で俳優賞をもらった時に、僕ら3人が表彰されるということは、これはもう監督が表彰されているのと同じですと話させていただいた。この映画を通して、いろいろな景色を見させていただいた」と心からの感謝を伝えていた。


取材・文/成田おり枝

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