洗脳、人形、超能力…都市ボーイズが読み解く『ロングレッグス』を巡るキーワード

洗脳、人形、超能力…都市ボーイズが読み解く『ロングレッグス』を巡るキーワード

インディーズ系スタジオの製作ながら全米で大ヒットを飛ばし、ホラーファンを唸らせ、観客の心を大いにザワつかせた注目のサスペンス・ホラー『ロングレッグス』(公開中)。普通の家庭の父親がある日突然、妻子を惨殺するという事件が相次いで起こり、その謎を新人FBI捜査官のリー・ハーカー(マイカ・モンロー)が追いかける。事件はすべて、月の14日の前後6日間のあいだに起こっていた。カギを握るのは、ロングレッグス(ニコラス・ケイジ)と呼ばれる不気味な存在。捜査陣はこの不審人物を拘束するが、事件はこれで終わらなかった…。

【写真を見る】“ここ10年で1番怖い”とも言われた衝撃作…『ロングレッグス』の世界へようこそ
【写真を見る】“ここ10年で1番怖い”とも言われた衝撃作…『ロングレッグス』の世界へようこそ[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

1990年代に流行したサイコスリラーの構造をなぞりつつ、現代的なサスペンスを創造。一方で人並外れた直感力、マインドコントロールとも呪術ともつかぬ邪悪、アイコニックで恐ろしい殺人鬼、不気味な人形…と、本作はリアリズムと虚構が巧みに混ざり合って展開していく。作中に描かれているさまざまな要素は現実にも存在するのか?PRESS HORRORでは、一足先に映画を観賞した、都市伝説や陰謀論に詳しくYouTubeでも人気の怪奇ユニット「都市ボーイズ」の岸本誠、はやせやすひろに話を聞いた。

※本インタビューは、作品後半の展開に触れる表現を含みます。直接的なネタバレはございませんが、未見の方はご注意ください。

「オスカー俳優のニコラス・ケイジが悪役を演じると、こんなにすごいものになるとは!」(はやせ)

――まずは『ロングレッグス』を観た率直な感想をお聞かせください。

岸本「観る前はもっと王道のホラーなのかなと思っていたけれど、『羊たちの沈黙』や『セブン』、『ゾディアック』のような名作サスペンスの雰囲気もちゃんと持っている作品ですね。それに加えて、Jホラー的な不穏な空気のつくり方がとても上手い。怖いというより不気味な感じがしておもしろかったです」

はやせ「まずタイトルがいいですよね。ロングレッグスは直訳すると“あしながおじさん”という意味だけれども、子どもに恐怖を与える存在で。自分は14日が誕生日なんですが、『ガキの頃に、コイツと会ってたら俺は殺されてたんか』と(笑)。それとロングレッグス、最初のうちはニコラス・ケイジが演じていると気づかなかったんですよ。不気味すぎて」

実在する未解決事件を題材にしたデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』
実在する未解決事件を題材にしたデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』[c]Everett Collection/AFLO

岸本「電車に乗ってると、たまにこういう人いるよね。一人で歌ってるおっさんとか。ロングレッグスというキャラクターには、そういう人を見かけた瞬間のゾワッとするような、生々しい恐怖感がありました」

――せっかく名前が出たので、ニコラス・ケイジについてもお話しを。

岸本「ここ十数年、数えきれないほどの映画に出ているじゃないですか。借金返済のためにどんな映画にも出ていると聞いたことがありますが、間違いなくこの十数年の出演作のなかでは代表作といえるでしょうね」

はやせ「もともと本人がコミック好きで、ヒーローを演じたい人じゃないですか。『ゴーストライダー』とか『キック・アス』で演じたような。一方ではアカデミー賞を受賞した演技派俳優でもあって、そういう人が悪役を演じると、こんなにすごいものになるのか!というおどろきがありました」

アメコミオタクのケイジは、『キック・アス』で親子ヒーローのビッグ・ダディを嬉々として演じた
アメコミオタクのケイジは、『キック・アス』で親子ヒーローのビッグ・ダディを嬉々として演じた[c]Everett Collection/AFLO

「テレビで観るような表立った“超能力捜査”は、現実には存在しません」(岸本)

――では、劇中に登場するさまざまな要素について伺っていきましょう。まず主人公のFBI捜査官、リーが持っている特殊な“力”についてです。現実にも、このような“力”を使った捜査が行われることはあるのでしょうか。

岸本「超能力捜査ということでいうと、放送作家としてそのような題材のバラエティ番組に関わった際に、欧米の捜査機関に超能力部署があるのか調べたことがありますが、少なくとも表向きには存在しません。日本のテレビ番組では、さもそういう専門の部署があるように“盛って”紹介していますが、現実には存在しないのではないかと思います」

ロングレッグス事件を追うウィリアム・カーター(ブレア・アンダーウッド)は、特殊な“力”をもったハーカーに担当を命じる
ロングレッグス事件を追うウィリアム・カーター(ブレア・アンダーウッド)は、特殊な“力”をもったハーカーに担当を命じる[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

はやせ「日本でも部署としては存在しないと思います。ただ、直感の強い人が警察官になるというのはよくある話で、たとえば遺留品のバッグを見て、そのなかに殺人の凶器が入っていると言い当てたとか、亡くなった被害者と話したとか、そういう話は聞いたことがあります。それと、これはかなり昔の話ですが、警察官が殺人現場に踏み込んだ際、あたり一面血まみれで、死体も転がっていてこれは酷い状況だと思ったんですけど、ある同僚が『ちょっと待ってください。魂がまだそこにいます』と言いだした。で、よくよく現場を見ると、死体と思っていたのは、まだ生きている犯人だった…という」

元放送作家としての視点で、“超能力捜査”の裏側を語ってくれた岸本誠
元放送作家としての視点で、“超能力捜査”の裏側を語ってくれた岸本誠撮影/Jumpei Yamada


岸本「『ソウ』みたいな話だ(笑)。取調室のなかにいるはずのない人の姿を見たと思ったら、それが亡くなった人だった…みたいなケースはよくあるようです。ただ、日本の警察では『霊が見える』『魂が見える』というような発言をする警官は、拳銃の携帯を許されず、捜査の現場からは外されてしまいます。『病院で診てもらってこい』と。だから霊感があると表立って打ち明ける人はいませんし、吞みの席でネタ的に話すことはあっても、公になることはないと思います。が、なかには本当に“力”を持った方もいらっしゃるとは思いますけどね」

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