洗脳、人形、超能力…都市ボーイズが読み解く『ロングレッグス』を巡るキーワード
――本作の終盤で描かれる“悪魔崇拝”という要素は、日本人にはなじみが薄く感じられるように思います。
岸本「先ほど“先生”にあたるのが、本作ではロングレッグスだとお話ししました。しかし、ロングレッグスにとっても“先生”に相当する、さらに上位の存在がいるわけです。それはいわゆる悪魔です。ある人物が人形を届けに行く時、必ずシスターの恰好をしていましたよね。日本では悪魔崇拝と言われてもピンと来ないのが当然だとは思いますが、欧米ではそれに傾倒している人が身近にいたりするんです」
はやせ「それで思い出したけれど、日本のとある島に記者さんが取材に行ったんです。その島は上陸するのが困難なところにあるんですけれど、住民がある物に手を合わせているんです。なんだろうと思って見てみたら動物の石像で、数十年前に、『これに願えば、思いはかなう』と言い残して外国人が置いていったものだと。で、島の住民はそれに手を合わせるようになったんだけど、この動物の像は実はヤギで…つまり悪魔信仰やったんです。記者さんが『これはよくない』と訴えて、その石像は地面に埋められたんですが、その後も住民は埋めた場所に手を合わせている。しょうがないですよね。じいちゃんの代から続けていたことだから。彼らがそのまま悪魔信仰だと知らなかったら、それは悪魔じゃないわけだし、いまでも正しい信仰として続いていたでしょうね」
岸本「確かに、知らず知らずのうちに…というのは信仰のうえではよくあることですね。ですから悪魔崇拝というのも、そんなに珍しいものではないんです」
「『羊たちの沈黙』で『X-ファイル』で、ラブストーリー。気になった人は観て損はないです」(はやせ)
――では最後に、まだ未見の方に『ロングレッグス』を薦めるとしたら、お2人はそれぞれどうアピールされますか?
はやせ「映画としては、『羊たちの沈黙』だと思ったら、『X-ファイル』が始まって…とジャンルを超えたおもしろさが詰まっているので、気になる方は観て損はないよと言いたいです。僕らの動画のファンの方に言うとしたら…“まるではやせを観るような映画”じゃないかと思います。このまま生きていったら、僕自身がロングレッグスになるような気がするんです。呪物をさんざん集めてるし…」
岸本「じゃあ、はやせの未来を観ることできる映画ということで(笑)。それはともかく、ホラーが好きな人もそうでない人も、楽しめる映画なんじゃないかなと思います。残虐な描写やジャンプスケアがあまりないので、ある意味ホラーらしくはないんだけど、得体の知れない不気味な雰囲気が充満しています。そしてその不気味さのなかにこそ、人間にとっての恐怖の根源があるような気がしますね」
はやせ「僕はこの映画をある種のラブストーリー、愛の映画だとも捉えていて。巷では人を愛しすぎると、その愛は狂気と化していくと言われていますが、僕はちょっと違うんじゃないかと思っています。たとえ裏切られたとしても、愛は愛のままだし、好きであることは変わらない。この映画では、その尖った愛を散々見せられた気がします。ロングレッグスにとってリーは敵ですが、実は彼女に対して汚い言葉を一切吐いていないんです。すべてに対して愛があるのがおもしろい」
岸本「どちらかというとロングレッグスは、彼女に感謝しているような感じでしたからね。いろんな要素がある作品なので、どこを立てて薦めるかは難しいですが、そういう曖昧なところがまた味になっている。エンタメ性の強い映画だから、ホラー好き以外にもぜひ観てほしいですね」
取材・文/相馬学