洗脳、人形、超能力…都市ボーイズが読み解く『ロングレッグス』を巡るキーワード

洗脳、人形、超能力…都市ボーイズが読み解く『ロングレッグス』を巡るキーワード

「ロングレッグスには、新興宗教における“先生”のような側面があります」(岸本)

――続いては、ロングレッグスによる謎めいた犯行の手口に話を移しましょう。現実的に捉えると、彼はマインドコントロールを駆使しているように見えます。

はやせ「マインドコントロールされた人って、その状態から簡単には抜けだせないんですよ。被害者の会に出席したこともありますが、家族がどんなに説得しても、さんざんお金を搾り取られて、得るものがなにもなくても、『“先生”の言うことは正しい』と信じている。ロングレッグスが行っている洗脳は、そのもっとも悲惨なかたちです」

幼少期のハーカーの封印された“記憶”とは…
幼少期のハーカーの封印された“記憶”とは…[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

岸本「“先生”というのは新興宗教によくみられる存在です。本作はその“先生”がシリアルキラーであるという特殊な例ですが」

はやせ「日本で最近起きた事件ですが、身内を亡くした方が『先生に言われたから』とその身内の遺骨や遺影を持ちだしたんです。その方の家族は当然先生に対して『返してよ』と訴えるわけですが、コミュニケーションの過程で先生は家族も支配下に置いて、大事なものを持ち出させたんだそうです。しかも、主犯は宗教家でもないたった1人の男性だったんです。それくらいマインドコントロールって案外、簡単にできちゃうんですよね。僕は呪物を収集していますが、最初うちの奥さんは『やだ、こんなの』と嫌がっていたけど、いまはすごくかわいがってくれています。これもある種のマインドコントロールですよね(笑)」

物語前半は、暗号解読ミステリーとして緊迫感ある展開が続く
物語前半は、暗号解読ミステリーとして緊迫感ある展開が続く[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

岸本「フリースクールでも、洗脳めいたことが行われていた例があります。不登校の児童を集めた学校で、指導者が児童を拉致して性格を矯正した、というような事件があったんです。生徒たちは解放され、常識的におかしいと理解しても、そこから簡単に抜けられない。先生に褒められることが価値観のすべてになってしまっているからです。洗脳が解けたとしても、ふとした瞬間に先生に褒められたことを思い出したりする。本作でいうと、主人公のリーの潜在意識のなかにロングレッグスがいるように感じました。母子家庭で育ったという描写もあって、ロングレッグスをある意味でお父さんのように思っているようにも感じたんです。逆にロングレッグスは、リーが自分を救ってくれると信じている。取調室で2人が対峙した時、ロングレッグスが泣いているように見えるんです。本気で助けてほしいと、彼女に願っていたのかもしれません」

「呪物を集めているなかで、魂の入った人形と出会うことがあります」(はやせ)

呪物収集のなかで出会った、人形へ感じる思いを語ってくれたはやせやすひろ
呪物収集のなかで出会った、人形へ感じる思いを語ってくれたはやせやすひろ撮影/Jumpei Yamada

――ロングレッグスは人形というアイテムを用いて、標的の家族に災厄をもたらしますが、その部分はどう見ましたか。オズグッド・パーキンス監督によると、あれは児童が犠牲となった未解決事件ではもっとも有名と言える「ジョンベネ事件」の犠牲者、ジョンベネ・パトリシア・ラムジーの6歳の誕生日に、彼女が両親から等身大の“ジョンベネ人形”をもらっていたという実話をヒントにしたとのことです。

岸本「あー、なるほど。事件そのものは似てないけれど、発想はわかりますね」

『サイコ』のアンソニー・パーキンスを父に持つ、オズグッド・パーキンス監督
『サイコ』のアンソニー・パーキンスを父に持つ、オズグッド・パーキンス監督[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

はやせ「人形を媒介として、なにも知らない無垢な子どもを呪いに利用するというのは胸糞悪いですね。さっきも言いましたが、僕は呪物を集めていて、そのなかには人型のものがけっこうあるんです。だから、僕としてはこの映画での人形の扱いはかわいそうというか、同情を感じてしまいました。

人形と呪いということでいうと、タイにルクテープという人形があって、僕も現地の市場で入手したんですが、隠れている部分に呪文がビッシリ印字されているんです。その人形は、4歳の時に虐待で亡くなった子どもの魂が込められていると売り手は言っていました。『この子にとっていい思い出のないタイにずっといてほしくない。大事にしてくれるんなら、安く譲るから国に持って帰ってくれ』と言われて買いました。それくらいタイの人は人形ときっちり向き合っていますし、決してネガティブな面ばかりではないと思います。


ロングレッグスが用いる不気味な人形たちは、本作のジャンルレスさを象徴するアイテムと言える
ロングレッグスが用いる不気味な人形たちは、本作のジャンルレスさを象徴するアイテムと言える[c]MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

ただ、人形に人間が操られるという意味では、『ロングレッグス』と似たような話も聞いています。人形供養をしている京都の神社に、ある男性が『この人形の魂を抜いてほしい。怖いから』と持ち込んだんです。で、神社では魂抜きの儀式を行ない、ガラスケースのなかに保管した。数日後、依頼人の男性が怒って乗り込んできて『人形が帰ってきたじゃないか!』と、その人形を持って来たんです。でも神社の方は、『それは違います。あなたが持ち帰ったんです』と。実際、その方の姿は防犯カメラにしっかり映っていた。彼にはその記憶がまったくないんです。こういうことって、あるんですよね」

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