超能力ヒーローエンタメ『ハイファイブ!』にカン・ヒョンチョル監督が込めた“人”への眼差し「ファンタジーは、必ず現実に足をつけていなければならない」
「私はいつも“人”についての物語を作りたい」
『サニー』『スウィング・キッズ』同様、本作でも音楽が物語を力強く後押しする。印象的なシーンで流れるのは、スマッシング・パンプキンズの「I Am One」やスナップ!の「The Power」。選曲についての哲学を、監督はこう明かす。「音楽は、姿は見えず音だけで存在する“第三の俳優”のようなものだと思っています。その場その場で登場人物を助けたり、人物と一体になったりしながら、物語を前へ進める手助けをしてくれるのです」。
アクションの設計にも妥協はない。「絵コンテは、どの映画でも全カットを一つひとつ詳しく描きます。私にとって絵コンテは映画の準備そのもの」。VFXを多用する今回は、撮影・美術・特殊効果・CGIの全部署が週3〜4回集まり、何か月も議論を重ねたという。「口の中がカラカラになるほど、徹底的に話し合いました(笑)」と監督はジョーク交じりに語るが、その積み重ねが、本作のアクションに説得力を与えている。
『サニー』『スウィング・キッズ』と重なるもう一つの特徴は、異なる背景を持つ人々が一つのチームになっていく物語であることだ。アンサンブルへのこだわりについて聞くと、監督は自身の映画作りそのものへの共通点を語ってくれた。「映画は絶対に一人ではできない仕事です。たくさんの人が同じ思いを共有し、一つの目標に向かって完成させていく。いい人たちに出会って一緒に仕事をする、その方法自体が、複数の人物が集まり共に成長していく物語とどこかつながっているのだと思います」。
時代や戦争を映し出した『スウィング・キッズ』同様、本作も社会の現実を描き出す。「ハイファイブ」の5人が終盤に駆けつけるのは、劣悪な環境で働かされる若い労働者たちが閉じ込められた作業場。この場面について尋ねると、監督は「特に『労働問題について語ろう』と考えていたわけではありません。ただ、不合理なことや社会的弱者への扱いの問題は、韓国だけでなく日本も含め、世界中の労働環境にある。それは他人事ではなく、多くの人が実際に経験している社会の構造だと思うんです」と語った。
現代に必要なヒーロー像について、監督はこう言う。「いま、世界中で人々がお互いを憎んだり嫌悪したりすることが、以前よりもはるかに強くなっているように感じます。それは、ある種の感情的な欠乏から来ているのではないか。だからこそ、特別な能力がなくても、身近な人にいつでも慰めや安心を与えることができる。それだけで、十分にすばらしいヒーローになれるのではないかと思っています」。
超能力をひとつだけ使えるとしたらなにがいいか尋ねると、「ヤクソンが持っている、治癒する力ですね。年齢を重ねてくると、いちばん欲しくなります(笑)」と答えた。次回作もすでに準備中だという。「ファンタジー的な要素は入りますが、人間関係や、私たちが歩んでいく人生の軌跡について考えながら作っています。結局、私はいつも“人”についての物語を作りたいんだと思います」と語った。
そんな「人への眼差し」は、日常のなかにも向けられている。「地下鉄に乗っている時も、周りの人たちを見ながら、いろいろ想像しています。一人ひとりについて、『この人にはどんな過去があったのだろう』と。特に年配の方を見ると、『この人は子どものころ、どんなふうに育ったんだろう』と、思いを膨らませ、小さな子どもたちを見ると、『大きくなって、どんな人生を送るんだろう』と考えています」。こうした日々の細やかな観察が、監督の物語作りを支えているのだろう。
取材・文/桑畑優香


