ペニーワイズの“中の人”でおなじみ、クセ強キャラを確立したビル・スカルスガルドが『デッドマンズ・ワイヤー』で魅せる特異なオーラ
閉鎖空間のサスペンスを極限まで張り詰めさせた『デッドマンズ・ワイヤー』
そんなビル・スカルスガルド主演の最新作が、『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(97)や『ミルク』(08)のガス・ヴァン・サント監督がメガホンをとったクライムスリラー『デッドマンズ・ワイヤー』だ。
舞台は1977年2月のアメリカ。不動産会社に搾取されたと強く信じ込み、社会への怒りを爆発させた中年の独身男性トニー・キリシス(ビル・スカルスガルド)が、社長の息子である役員の首と散弾銃をワイヤーで固定し人質に取った(無理に外そうとすると頭に銃弾が撃ち込まれる仕組み)という実際の籠城事件に基づくドラマだ。
この作品には社長役で名優アル・パチーノも名を連ねているが、70年代を舞台にした人質劇というシチュエーションは、どうしたって彼が主演した傑作『狼たちの午後』(75)を思い起こしてしまう。だが、ビルのアプローチは、かつてパチーノが見せた狂犬のごとき爆裂芝居とはまったく異なる。
追い詰められた状況下で彼が見せるのは、まるで怯えた子犬のように哀切極まる鬱屈芝居(パチーノよりもはるかにカラダがデカいのに!)。そのテンパりっぷりが、閉鎖空間のサスペンスを極限まで張り詰めさせ、観客の目を釘付けにする。
名優ロン・チェイニーに例えられるアウトサイダー感
ガス・ヴァン・サント監督は、ビルの才能をロン・チェイニーになぞらえて称賛している。チェイニーといえば、1925年公開の『オペラの怪人』の怪人役などで知られ、自らの肉体を極限まで変容させる役作りから、“千の顔を持つ男”と謳われたサイレント時代の名優だ。
異形の存在を演じながらも、その奥底に悲哀や孤独を滲ませたチェイニーの系譜に彼を位置づけたことは、ビル・スカルスガルドという俳優の真髄を鋭く突いている。彼は自身が纏うアウトサイダー感を媒介にして、社会の周縁に追いやられた者たちの痛みをスクリーンに生々しく刻み込んでいるのだ。
退廃的な色気を漂わせるマスクと規格外の身体性、そして危ういアンビバレンス。それらが奇跡的なバランスで同居する様は、もはやハリウッドにおいてオンリーワンの存在だ。ペニーワイズという強烈なアイコンから出発したいま、これからも枠に収まることなく進化を続けていくことだろう。
文/竹島ルイ
