嘘偽りなき“全身全霊を傾けた演技”『アン・リー/はじまりの物語』アマンダ・セイフライドの過去作を凌駕する強烈な熱演に迫る
第98回アカデミー賞のノミネートが発表された際、ちょっとした論議を呼んだのが、アマンダ・セイフライドが主演女優賞にノミネートされなかったこと。ゴールデン・グローブ賞ではノミネートされていたし、批評家の賞も複数受賞しており、賞候補に名を連ねてもおかしくなかった。
そんな、セイフライドが熱演を披露した作品が『アン・リー/はじまりの物語』(公開中)だ。18世紀に実在した英国出身の宗教指導者アン・リーの人生を題材にしている。監督を務めたのは第97回アカデミー賞ノミネート作『ブルータリスト』(24)で共同脚本を手掛けたモナ・ファストボルド。同作の監督であるパートナー、ブラディ・コルベットと共に脚本も担当し、ミュージカルテイストを盛り込みながら、単なる伝記ドラマには終わらない個性的な作品を生みだしてみせた。
“キリストの生まれ変わり”として人々を導こうとしたアン・リー
アン・リーは、性別や人種に囚われない平等主義者。“キリストの女性の姿の生まれ変わり”という啓示を受けた彼女はそれに従って理想のコミュニティを作ろうとするが、国家権力によって迫害され、わずかな信者たちと渡米して“理想郷”を見つけようとする。困難を乗り越え、シェーカー教団と呼ばれる自身のユートピアを築き上げると、それは当時のアメリカ最大級のコミュニティに成長していった。
シェーカー、すなわち揺れる人。これは聖霊を自らの体内に迎える儀式を行うにあたり、信者たちが激しく体を揺らすことからその名がつけられた。この儀式の場面をミュージカルとして捉えているのが、本作のユニークなところだ。
権力によって投獄されるなど波乱の生涯を送る
アン・リーの生涯は、波乱に富んでいる。成長するほど信仰にのめり込んでいく。結婚して4人の子どもを授かるが、いずれも乳児期に亡くしてしまう悲劇を経験。それは、ますます性欲というものに罪の意識を抱くようになり、彼女の信仰への依存を強めることになり、さらにはシェーカー教の中心人物となっていった。これを危険視した権力によって投獄されたこともあり、彼女と家族、数人の信者たちはアメリカへ渡ることを決意するのだ。
