主要スタジオの戦略と、観客の需要に“ズレ”あり?CinemaCon 2026の総括から浮き彫りになったハリウッドの問題点と、新たな3つの潮流

主要スタジオの戦略と、観客の需要に“ズレ”あり?CinemaCon 2026の総括から浮き彫りになったハリウッドの問題点と、新たな3つの潮流

気合いの入った「ワーナー」、「ディズニー」のプレゼン内容とは?

【写真を見る】CinemaConの舞台で撮られたトム・クルーズ&ジェイソン・モモアのレアな2ショット!
【写真を見る】CinemaConの舞台で撮られたトム・クルーズ&ジェイソン・モモアのレアな2ショット!Monica Schipper/Getty Images for CinemaCon

ワーナーとディズニーの「気合い」は、それぞれ別の方向に振れていた。ワーナーのプレゼンは、終了予定時刻を30分近く押すほどの熱量で、象徴的だったのは、トム・クルーズとニコール・キッドマンを同じプレゼンに、わずか1時間ほどの時間差で別々に登壇させるという驚愕の采配である。クルーズはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督『DIGGER/ディガー』、キッドマンはサンドラ・ブロックと共に『プラクティカル・マジック/魔女たちの秘密』(9月18日公開)の紹介で別々にステージに立った。1990年から2001年まで11年間夫婦だった2人が、離婚から四半世紀を経て同じ会場の同じスタジオプレゼンに前後して登壇するというのは、業界における長年の「不文律」が破られた光景でもある。海外メディアはこれを「数分差ですれ違った2人」と報じたが、直接の交流はなかったとされる。一方で、これだけ近接した時間枠で別々の作品プロモーションのために2人を起用するのは、ラインナップの厚みの裏返しでもあり、同時に「作品多すぎ問題」の表出でもあった。1本1本のプレゼン時間が圧縮され、興行主が各作品を消化しきれないまま次々と紹介が続く展開となった。

『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』でMCU復帰を果たすロバート・ダウニー・Jr.
『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』でMCU復帰を果たすロバート・ダウニー・Jr.David Becker/Getty Images for CinemaCon

対してディズニーは、かつてのユニバーサル全盛期を彷彿とさせる気合いの入れ方だった。タレントの稼働数も多く、フッテージも惜しみなく投入された。注目すべきは、最終日のプレゼン直前にプレスへ配布された「フッテージ以外の撮影OK」というメールである。これまでの「写真・ビデオ撮影一切禁止」の方針が、直前に一部緩和された。背景には、ディズニーが『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』のプロモーション強化のため、プレスとしてインフルエンサー、ポッドキャスター、ブロガーなどSNS拡散層を多数招いていたという事情がある。『アベンジャーズ』のパネルでは、彼らが歓声と悲鳴で会場を盛り上げる場面が目立った。これについては、業界メディアの一部から「会場の熱気がいくらか人為的に作られたものではないか」との指摘も出た。同じパネルでは、ディズニー独自のプレミアム・ラージフォーマット(PLF)劇場認証プログラム「Infinity Vision」も発表された。IMAXやドルビーシネマのような新フォーマットではなく、既存のPLF劇場の中で大スクリーン、レーザープロジェクション、プレミアム音響の要件を満たすものに付与する認証ラベルである。第一弾は9月25日からスタートする『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)の全米での劇場再上映(日本でも9月にリバイバル上映を予定)、続いて12月18日の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』本公開で、同日公開の『デューン 砂の惑星PART3』にIMAXスクリーンを奪われるなかでの、ディズニーなりの解答と見ることができる。

結果論ではあるが、観客の関心がYouTubeやSNS発のクリエイターたちへと広がりつつある流れに対し、業界内でいち早く動こうとしたスタジオのひとつがディズニーだとも言えるだろう。もっとも、5月最終週末の北米ボックスオフィスで自社の『マンダロリアン・アンド・グローグー』が、まさにそのYouTube出身監督の2作品に1位2位を譲ったことを思えば、マーケティング的視座で先を読むことと、興行で勝つことは別の難しさを伴うのかもしれない。

CinemaCon 2026の総括、そして映画界に訪れている3つの新たな潮流

4日間を通じて、最も多くのスタジオで存在感を放った俳優は、間違いなくジャック・ブラックだった。SPE、ユニバーサル、ワーナーの3スタジオで登壇または主演作の言及があり、現在のハリウッドにおいて最もBankable(興収を稼ぐことができる)な俳優は誰かという問いに、明確な指標を示した。続いてドウェイン・ジョンソンが、SPEの『Jumanji: Open World』、ディズニーの実写版『モアナと伝説の海』(7月31日公開)、MGMの新作『Lizard Music』(公開日未定)と複数のスタジオで存在感を放った。

『Jumanji: Open World』で共演するケヴィン・ハート、ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラックが集結
『Jumanji: Open World』で共演するケヴィン・ハート、ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラックが集結Monica Schipper/Getty Images for CinemaCon

CinemaConのプレゼン会場で交わされた議論は、「劇場独占期間をどう守るか」「強力なIPをどう束ねるか」「デジタルネイティブのZ世代をどう劇場に引き戻すか」という、いずれもスタジオ側の論点に終始していた。各社は旧来のフレームワークの中で陣取り合戦を続け、その枠組み自体を疑う声は限定的だった。しかし、それから1か月半。観客が出した答えは、スタジオが議論していたどのカテゴリーにも厳密には属さない、YouTube出身監督による2本の小規模映画だった。20歳(当時)のケイン・パーソンズは『クロニクル』(12)のジョシュ・トランク(当時27歳)を抜いて、世界興収1位を獲った史上最年少の監督となり、26歳のカリー・バーカーによる『オブセッション』は、『E.T.』以来44年ぶりの興収カーブを描いた。前時代の記録を爆速で塗り替えるかのように…。

世界興行収入が3億ドルを突破した、カリー・バーカー監督の『オブセッション災愛』
世界興行収入が3億ドルを突破した、カリー・バーカー監督の『オブセッション災愛』[c] 2026 Focus Features LLC.

もちろん、2026年の年間興行ランキングの上位は、最終的には『トイ・ストーリー5』『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』『オデュッセイア』『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』『デューン 砂の惑星PART3』といったタイトルで占められる公算が高い。シリーズ、コミック原作、巨匠の新作…この骨格は揺らがない。だがその一方で、ゲーム原作映画への信頼性向上(『バイオハザード』『ストリートファイター/ザ・ムービー』など)、2000年代初頭ノスタルジア(『プラダを着た悪魔2』)、そしてYouTube発の若手監督台頭という3つの新しい潮流が、確実に劇場を訪れる観客の選択を動かし始めている。

CinemaConの議題そのものが、すでに半歩ずれ始めているのかもしれない。スタジオが「劇場独占公開期間」を語っている間に、観客はすでに別の質問への答えを探していた。「いま、どんな映画を観たいのか」と。2026年下半期、ハリウッドはこの問いにどう向き合うのか。来年のCinemaCon の論点設定は、今回とは大きく様変わりしている可能性が高い。


文/平井伊都子

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