主要スタジオの戦略と、観客の需要に“ズレ”あり?CinemaCon 2026の総括から浮き彫りになったハリウッドの問題点と、新たな3つの潮流
北米では、夏休み突入間近の5月最終週末のボックスオフィス速報に、業界中が騒然とした。1位はA24配給の“リミナル・スペース(本来人が行き交う場所が閑散としている状態)”ホラー作品『バックルームズ』(9月4日公開)。北米週末興収8,140万ドル(公開当時のレートで約129億円)、全世界興収1億1,800万ドル(約188億円)という数字は、A24史上最大のオープニング記録となった。前記録保持者だったアレックス・ガーランド監督『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)の2,550万ドル(約41億円)を3倍以上上回る快挙だ。2位は5月15日に公開された低予算ホラー作品『オブセッション 災愛』(7月17日日本公開)。第2週で前週比39%増、第3週でさらに14%増という、ホリデーシーズン以外では『E.T.』(82)以来となる興収カーブを描いたことが話題になっている。製作費は『バックルームズ』が1,000万ドル(約16億円)、『オブセッション』が75万ドル(約1.2億円)と、2作合わせても1,100万ドル弱(約17億円)。両作の監督はいずれもYouTube出身のクリエイター、しかも30歳未満の“Z世代”ど真ん中である。
興味深い符号もある。今年1月にYouTubeクリエイター、マーク・フィッシュバック(マークプライヤー)監督による『Iron Lung』(26)が独立系配給による劇場公開で予想外のヒットを記録したのに続き、『バックルームズ』『オブセッション』と、YouTube出身の若手監督による作品が連続して興行記録を塗り替える展開となった。そして2029年の第101回からは、アカデミー賞そのものがYouTubeでの全世界無料配信へと移行することがすでに発表されている。2028年の第100回がABCで放送される最後の式典となり、その翌年からは映画の最高峰を讃える式典がYouTubeで世界中に届けられる時代に入る。映画の作り手と、その栄誉を伝えるプラットフォームの両者が同時にYouTubeを軸として再構成されつつあるのは、偶然ではなく時代の表れと見るべきなのかもしれない。
CinemaCon 2026の主な争点となった“劇場独占公開期間”
4月13日から16日にかけて米ラスベガスで開催された映画興行のコンベンション、CinemaConの時点でこうした展開を予測した業界関係者はほとんどいなかった。象徴的なのは、『バックルームズ』を配給したA24はそもそもCinemaConでプレゼンを行っておらず、『オブセッション』配給のユニバーサル・ピクチャーズ傘下のフォーカス・フィーチャーズは、同作を自社プレゼンのラインナップに含めていない。年間最大の興行イベントで紹介されなかった2作品が、CinemaConからわずか1か月半で、興行ランキング1位2位を占めることになる。スタジオが議論していた論点と観客の動向に、看過できない乖離が浮かび上がったと言えるだろう。
今年のCinemaConを一言で総括するなら、「劇場独占公開期間(ウィンドウ)の数字を競う4日間」だった。各スタジオはプレゼンテーション冒頭に、劇場公開後されてから配信に移行するまでの独占公開期間について言及。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)のトム・ロスマン会長兼CEOは「より長い劇場独占公開期間を徹底」と踏み込んだ提言で口火を切り、続くユニバーサルではドナ・ラングレー会長がこれに呼応した。圧巻はスティーヴン・スピルバーグ監督の登壇発言で、「ユニバーサルが45日間の独占期間を宣言したことをうれしく思う。でも今日は欲張らせてほしい。60日を要求したい、聞こえますか?」と訴え会場を沸かせた。最終日のパラマウント・ピクチャーズではデヴィッド・エリソンCEOが「ワーナー・ブラザースとの統合後、両スタジオで年間最低30本を劇場公開し、45日間の劇場公開期間を確保したうえで、90日後にはストリーミングに移行する」と大胆なコミットメントを表明した。「45日」「60日」「90日」の数字合戦が、4日間を貫くトレンドとなった。
伏線は会期前夜にもあった。CinemaCon前日の日曜日、Netflixのテッド・サランドスCEOがラスベガスを訪れ、AMCシアターズ、リーガル・シネマズといった大手興行チェーンの幹部と非公式に懇談していた。関係者の話を総合すれば、両者の認識のすり合わせは難航したようだった。ストリーマーと興行主の溝は依然として深く、独占期間延長の現実的な見通しは立っていないとの見方が大勢を占めた。ところが、CinemaCon閉幕からわずか2週間後の5月1日、Netflixが意外な動きを見せた。グレタ・ガーウィグ監督による『Narnia: The Magician's Nephew』を、2027年2月12日にIMAXを含む世界規模の拡大劇場公開とし、Netflix配信開始までの49日間を劇場独占公開期間として確保する方針を発表した。当初は2026年11月の感謝祭にIMAX限定2週間上映後、クリスマス前後に配信する計画だったが、製作の遅れも重なり大幅な路線変更となった。Netflix自社製作の主要作品で本格的な拡大劇場公開+業界標準の独占期間が設定されるのは初めてのことだ。CinemaConでの興行主たちの議論が、いくらかでも実を結んだ結果と見ることはできるだろう。
