押井守が“評判の悪い”実写映画を撮りたい理由。『ボトムズ』ファンの不安に「そう思うのも仕方ないかと(笑)」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」最終回『バーン・アフター・リーディング』後編】

押井守が“評判の悪い”実写映画を撮りたい理由。『ボトムズ』ファンの不安に「そう思うのも仕方ないかと(笑)」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」最終回『バーン・アフター・リーディング』後編】

「色々な映画の愉しみ方を手に入れることで、人生が有意義になるかもしれない」

――押井さん、この連載も今回で終わりです。いかがでしたか?

「“映画に裏切られる”ということを前向きに考えたかったので、この連載を始めたんだよね。『裏切られた』と思った時、怒るだけじゃ元も子もない。映画の観方、楽しみ方はいくつあってもいいんです。多数派と同じ観方をしたい。あるいは、世間が叩くんなら自分も叩く。世間が褒めれば、きっといい映画なんだろうと思う…そういう観方をしていると損をする。映画を観ることを通して、自分の映画の観方を養って行かなきゃいけないの。そうすることで、自分なりの価値観を手に入れられるからですよ。裏切られたから“怒る”んじゃなく“考える”ことが必要なんです。
そうやって培った独自の価値観というのは、すべてにおいて最も重要になる。なぜなら、自分の価値観を持つ以外、自分を守る方法はないから。気が付くと世間に流されていた。いつの間にか“ワン・オブ・ゼム”になっていた。それはエンタテインメントの楽しみ方だけじゃなく、仕事も政治も、すべてに言えること。自分の価値観がなければ流されるだけ。それを怠ると、“ワン・オブ・ゼム”になるどころか、ある意味で被害者にもなってしまう。生きるうえでの被害者、世間や他人にいいようにされちゃうだけになるんだから!」

連載のテーマを決めた理由を振り返る押井監督
連載のテーマを決めた理由を振り返る押井監督

――わかるような気がします…。

「不思議なんだけど、なぜかエンタメになると、たとえ自分の価値観をもっている人であってもイデオロギッシュになる場合が多いんだよね。こうあるべきだという観方を呑み込んでしまう。無料のネットであろうが、入場料を払う映画であろうが『この作品はかくあるべきだ』『こうやって観るべきだ』という意見になる。普段はいい加減なくせにエンタメになった途端、不寛容になるんです。お金払って美術館とか展覧会に行って、文句言う人はあまりいないでしょ?その理由は世間の評価が決まっている作品が並んでいるからだよ。でも、これから観る映画に関してはそうじゃない。その映画をチョイスするとき、あらゆる前情報を集めて『おもしろい』と決めつけて行ったのに、そうじゃなかったからといって怒る。そういう人は映画も絵画のように評価済みの世界にしたいんです」


――ネタバレは怒るのに、情報はかき集めるという人が多いと聞いたことがあります。

「そうやって映画館に行ったのにハズレだった。『裏切られた、金返せ』になる。いつも疑問なのは、なぜ『金返せ』になるのか。だって自分で選んだんだからいいじゃないの。自分で痛い目に遭ったと感じているのなら、そこからなにかを学べばいいだけだよ。
私はそういう目に何度も遭って来たし、映画を生業にしているから、ツクリモノ、エンタメの世界はよりシビアに考えている。そういう私に言わせれば、逆に“裏切られた”という感情をおもしろがるのが理想的だと思っている。映画の醍醐味には“観る”だけじゃなく“喋る”や“語る”という愉しみ方もあるわけだから、そういう過程で新しい価値観を見つけることができるかもしれないじゃないの。ある駄作と言われている映画を観たら、自分はおもしろかった。その時、ちゃんと考えて、もしかしたら駄作の烙印を捺した世間のほうが間違っていたのかもしれないと思うようになる――それが重要なんです。多様性を叫んでいるわりには頑ななんだよね、エンタメに関しては。いまだにホント、イデオロギッシュなんだから」

押井監督による新連載も現在準備中。乞うご期待!
押井監督による新連載も現在準備中。乞うご期待!

――そういう世間の風潮にこの連載で、ちょっとだけ自説を垂れてみたわけですね。

「そうです。本当にちょっとだけだけどね。世間の評判を信じて観た私がバカだったという結論だけじゃもったいから。もう一つは、言っておきたいのは、映画を楽しむためには経験と教養と蓄積、そして訓練が必要なんです。その点は美術館で絵画を楽しむのと同じですよ。にもかかわらず、映画に関してはお金を払っているんだから、誰にでもわからないとおかしいと思っている人が多い。

つまり、おかげでお金も時間も損をしたというような考え方だと、自分の人生、損することになりますよ。最終的にはそういうことを言いたいんです。色々な映画の愉しみ方を手に入れることで人生が有意義になるかもしれない――その人生のほとんどを映画と共に生きて来た人間の経験談だよ。いっぱい観ただけじゃなく、いっぱい考えたんだから!

なので、次の連載でも新しい映画の観方を紹介したいと思ってます」

――はい!押井さん、長い間、ありがとうございました。そして、次もよろしくお願いします!

取材・文/渡辺麻紀

押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」

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