インテリアスタイリスト石井佳苗が語る『アン・リー/はじまりの物語』とシェーカーの美学「映画の第一印象はびっくり! 手縫いの衣装や美術も見どころ」

インテリアスタイリスト石井佳苗が語る『アン・リー/はじまりの物語』とシェーカーの美学「映画の第一印象はびっくり! 手縫いの衣装や美術も見どころ」

アマンダ・セイフライド主演の伝記ミュージカル映画『アン・リー/はじまりの物語』(6月5日公開)を上映する「サーチライトプレミア試写会-シネマラウンジ-vol.6 with The Conran Shop」が5月27日に109シネマズプレミアム新宿で開催された。MOVIE WALKER会員ほか、映画ファンが集った本試写会で行われたトークイベントでは、ゲストとして登壇したインテリアスタイリストの石井佳苗が、映画と家具の双方に息づく「シンプルで美しい生き方」について語った。

【写真を見る】劇中のミュージカルシーンとアマンダ・セイフライドの美声が圧巻!
【写真を見る】劇中のミュージカルシーンとアマンダ・セイフライドの美声が圧巻![c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

『ブルータリスト』(24)のスタッフが再結集して手掛けた本作では、18世紀に「シェーカー教団」と呼ばれるユートピアを築いた宗教指導者アン・リーの波乱万丈な人生が描かれ、質素で規則正しい暮らしを追求したシェーカーの思想を鮮やかに映し出した。その精神は、The Conran Shopと石井が共同で手掛けた「アン シェーカー」シリーズにも受け継がれている。今回のイベントでMCを務めたのは、ライターで編集者の小柳帝。

恒例の「サーチライトプレミア試写会-シネマラウンジ」、今回は109シネマズプレミアム新宿で開催
恒例の「サーチライトプレミア試写会-シネマラウンジ」、今回は109シネマズプレミアム新宿で開催撮影/編集部

石井はまず、映画を観た感想について「シェーカー教団のリーダーが女性だったことをご存知の方はそんなに多くいらっしゃらないんじゃないでしょうか。私も、シェーカー家具やシェーカースタイル、シェーカーのデザインというところから、このシェーカーを知ることになりました。すごく憧れのスタイルですが、おそらく皆さんが思ってらっしゃるのは、すごく牧歌的で、ゆったりとしたイメージでは?人間にとってユートピアを築くという思想がありますので、なんていうか、優しくて、気持ちが落ち着くような女性を想像していたのですが、実際に映画を拝見して驚きました!」と述べた。

MCを務めたのはライターで編集者の小柳帝
MCを務めたのはライターで編集者の小柳帝撮影/編集部

小柳が「思っていらっしゃったイメージとずいぶん違ったということですね?」と聞くと、石井は「だいぶ違いましたね。シェーカーというライフスタイルのイメージからすると、あまりにも壮絶すぎました。胸が締めつけられるような場面も多かったように感じましたが、だからこそ、このユートピアを築きたいという気持ちになったんだなと理解できました」とコメント。

主演はアマンダ・セイフライド
主演はアマンダ・セイフライド[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

続けて石井は「いま出版されているシェーカー関連の書籍ではほぼ描かれてない内容で、知らなかったことばかり。彼女は女性のリーダーとして生き抜いていくという一つの思想を持っていたけど、それがこんなに大変だったなんて。時代ももちろん違うけど、何度も立ち上がる強さ、芯の強い女性だったんだなと感じました」と言葉をかみしめる。

小柳は、「それが、いまの時代にこの映画が作られた理由の一つかなというふうに思ったりもします」としたうえで「その後、アメリカへ渡ってから、理想のコミュニティを作っていくんですね」と納得した。次に、The Conran Shopと共同で、シェーカー家具を現代的に再解釈した「アン シェーカー」シリーズを開発した頃の話題へ。きっかけは当時のThe Conran Shopの社長、中原慎一郎氏とのやり取りだったという。

石井佳苗は劇中のアン・リーのキャラクターに驚いたと感想を述べた
石井佳苗は劇中のアン・リーのキャラクターに驚いたと感想を述べた撮影/編集部

「夜な夜な話をしているなかで、真っ先に浮かんだのがシェーカー家具でした。もちろん私のなかでのシェーカーのライフスタイルは憧れですし、それらは100年以上経っても変わらず、いまのデザインにも影響を与え続けています。本当に極めてシンプルですが、だいたいそこの原点に戻るんです。それで、私もシェーカー家具というものを現代におきかえて作ってみたいなと思い、その時に思い浮かんだのが、The Conran Shopさんとお仕事をするということでした。そこからいろいろと私も書籍で調べていくうちに、一つの哲学に行き着きました。それが『プレーン、シンプル、ユースフル』という言葉です。つまり飾りつけるのではなく、シンプルで機能的であることが、一つのデザインの基礎になっているという、創始者の哲学があって、そことシェーカーがすごく通じるなと思いました」。

デザインにおける秩序ある暮らしの美しさについて熱弁する石井佳苗
デザインにおける秩序ある暮らしの美しさについて熱弁する石井佳苗撮影/編集部

こうして、現代の暮らしに合うシェーカースタイルを目指した家具づくりがスタート。福岡県大川市の家具産地を訪れ、広松木工と共に開発がスタートし、現在のシリーズが誕生した。小柳から、特にこだわったポイントについて聞かれると、石井は「シェーカーの家具をただ模倣するということではなく、現代の暮らしに合うデザインだったり、しっくり収まることだったり。つまりデザインだけじゃなくて、どうなりたいか、どう暮らしていきたいかというようなところで、シェーカーの家具というものを照らし合わせ、現代におけるシェーカーのスタイルというものを、The Conran Shopが考えるというところで開発を始めていきました」と振り返る。

The Conran Shopと共同で、シェーカー家具を現代的に再解釈した「アン シェーカー」シリーズの開発に携わっている石井佳苗
The Conran Shopと共同で、シェーカー家具を現代的に再解釈した「アン シェーカー」シリーズの開発に携わっている石井佳苗撮影/編集部

続いて、石井が昨年5月に訪れたというアメリカの歴史的シェーカー集落「ハンコック・シェーカー・ビレッジ」の写真を紹介しながら、現地で感じた“秩序ある暮らし”の美しさについて解説した。「シェーカーというのは自給自足で、農作物を自分たちで育てたり、家畜もたくさん飼ったりしていたんです。その時、ちょうど豚が生まれたよと教えてくれたので、見にいきましたが、めちゃくちゃ可愛かったです」と頬をゆるませる。

石井が「宿舎の建物は、中に入ると廊下があり、右と左にドアがずらっと並んでいて、右側が女性で、左側が男性のお部屋っていう形で、しっかり分かれて入る感じでした。どうしても時代的に男尊女卑的な時代でしたが、そうではなく男女平等の暮らしをと。しっかり男女分かれた寄宿舎になっていました」とコメント。

映画の魅力についても熱くトーク
映画の魅力についても熱くトーク撮影/編集部

また、石井は「食器も白くて本当に装飾のない食器を使っていて、ずらっと規則正しくテーブルが並んでいる感じです。個室もあり、宣教師の方たちは別部屋で食事を取ったりするような場所だったと聞いています。お部屋がいくつかあるなかで、シェーカーで、私がすごくこう感動したスタイルは、どの部屋にも『ペグ・レール』がかかっていて、それが非常に機能的だったことです。椅子を反対側にして引っ掛け、間隔もまるで定規のように測られたような感覚で配置されているんです」と解説。

さらに「椅子だけではなくて、服や掃除道具など、なにかを作る工房であれば、材料であったり、ありとあらゆるものを引っ掛けられるという点も非常に機能的。でも見た目はシンプルなんです。また、学校もあったりするのですが、生活の道具もすべて手作り。籠も、身近で採れる植物を細かく割いて作っている。お掃除するためのほうきも手作りです。それらが美しいし、見てて本当に飽きない。ある一定の秩序を守って生活をしていたことがわかります。食堂もきちっとしていて、身なりを整えると、生活が整っていくと言われているのもわかります」としみじみ語る。

シンプルで美しい生き方について語り合った2人
シンプルで美しい生き方について語り合った2人撮影/編集部

そのスピリットについて石井は「なにか大変なことをするということじゃなく、あくまでも日常的な、当たり前のことをきちんとやるという教えです。それは、難しい話でも全然なくて。シェーカーに対して、誰もが憧れを持つのは、そういう部分なのかなと思いますね。世の中が情報にあふれ、なにが正解なのか分からないなかで、秩序を守って生活をしていけば、自ずと美しく暮らしていけるということを伝えているんですね」と納得。

また、「アンは、情熱を持って、心からそれをこう成し遂げたいという思いがあったから、どんなに辛い思いをしても、それを押し通していく信念や強さがあったことをすごく感じました。アンの強さと情熱に驚き、心を動かされるはず」とも語った。

『アン・リー/はじまりの物語』は6月5日(金)より公開
『アン・リー/はじまりの物語』は6月5日(金)より公開[c]2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved

最後に、石井はこれから映画を観る人へのメッセージとして「私の第一印象の“びっくり”というのをちょっと感じていただきながらも、この時代ならではの強さを感じていただきたい。あとは、あの時代の美術とか衣装とかも見どころかなと思っています。また、全部手縫いの衣装は、時代に合わせて草木染めで作られたことも伺っていて、時代というものをちゃんと意識した、すばらしい作品となってるので、そういったところも見どころです」としっかりアピールし、トークイベントを締めくくった。

なお、109シネマズプレミアム新宿の10階メインラウンジでは、6月18日(木)まで期間限定で、「アン シェーカー」シリーズの家具と作品の特別展示を実施中。ぜひ映画を観たあとに訪れていただき、余韻に浸ってほしい。


文/山崎伸子

関連作品