ナ・ホンジン監督9年ぶりの新作『HOPE』にカンヌ熱狂!コメディ、ホラー、SF、アクションが暴走する“問題作”の反響を現地からお届け
本作が世界的な注目を集める理由の一つが、ファン・ジョンミン、チョ・インソン、チョン・ホヨンという韓国映画界を代表するキャストに加え、マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、テイラー・ラッセルという国際的な顔ぶれが揃っていることだ。アリシア・ヴィキャンデルは長年、ナ・ホンジン監督との仕事を夢見ていたという。「21歳の頃にサン・セバスティアン映画祭でアジア映画に恋をして、そのあと『チェイサー』を観て、『哭声/コクソン』が公開された時には完全に打ちのめされました。自分が彼の映画に出演するなんて、想像すら及ばないほどの大事件です」。数年越しの縁がようやく実を結んだ形で、マイケル・ファスベンダーとテイラー・ラッセルも揃って「アリシアに出演を勧められました」と答えて会場を笑わせた。
韓国人主演キャストの3人もまた、前例のない現場に正面から向き合った。ファン・ジョンミンは、この映画の演技の本質をこう語る。「『肉体的に大変だったか』という観点で語れるかどうか、正直よくわかりません。演技はいままで経験したことのない非常に独創的なものでした。実在しない生き物に対してどう反応するか、そのエネルギーをすべて想像力でつくりださなければならなかったからです。実在の人物が相手であれば、『もうあんなやつを追いかけるのはやめた』と言い出したかもしれない(笑)。でも未知の生き物が相手だったからこそ、とても楽しく、遊び心あふれる体験になりました」。
チョン・ホヨンも続ける。「新しいものを作り上げるためには勇気が必要で、私たちは皆その勇気を持って参加しました。肉体的にはかなり要求の高い現場でしたが、精神的に強い生存本能を表現したかったので、そちらのほうがより難しかったかもしれません」。車の運転から銃器の扱いまで、撮影準備に5〜6か月を費やしたという。「実際のアクションシーンは私にとって全く新しい体験で、最初は少し怖かった。でも監督をはじめクルー全員が撮影前の準備を非常に丁寧に整えてくれました。こんなに長い準備期間はこれまでの経験ではありませんでした」。
チョ・インソンは、「監督は最初から、撮影中も常にこのエネルギーを求めていました。現場の雰囲気を思い切り楽しめたと思っています」と話す。現場でファン・ジョンミンからは「とにかくやってみろ」と背中を押された。「そのおかげで、困難なシーンを全て乗り越えることができました」。精神的・肉体的な準備を経て、俳優たちの体を張った演技が力強いアクションシーンを作り上げている。
音楽を手掛けたのは、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(17)、『NOPE/ノープ』(22)で知られるマイケル・アーベルス。今回がナ・ホンジン監督との初タッグとなる。「私にとって師匠のような存在で、多くのことを教えてもらいました。映画のなかに本当に大きなものを作り上げてくれた」とナ・ホンジン監督は話す。確かに、ジャンルを横断する映画作りは、ジョーダン・ピール作品と通じるところもある。
『HOPE』の熱狂を背景に、今年のカンヌにおける韓国映画の存在感は例年以上に際立っていた。審査委員長をパク・チャヌクが務め、併設マーケットにはポン・ジュノ監督も来場。新作アニメーション映画のキャスト発表も行われた。
また、韓国映画は複数の部門に名を連ねた。ミッドナイト・スクリーニング部門では、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホ監督による『Colony(英題)』が上映された。『暗殺』(15)以来、11年ぶりの映画復帰となるチョン・ジヒョンを主演に迎えた本作は、正体不明のウイルスによって封鎖されたショッピング・モールを舞台に、進化を続ける感染者と生存者たちの死闘を描くホラー作品。チョン・ジヒョンのほか、ク・ギョファン、チ・チャンウク、シン・ヒョンビン、キム・シンロクらが出演する。
監督週間には、日本を含む韓国・フランス・ルクセンブルクの4か国共同製作となる、チョン・ジュリ監督の新作『DORA(英題)』が選出された。原因不明の病を抱えるドラ(キム・ドヨン)が、真夏の海辺の別荘で安藤サクラ演じるナミら家族と過ごすうちに初めて愛を知り、静かに世界が揺らぎ始める姿を描く。キム・ドヨン、安藤サクラのほか、ソン・セビョク、チェ・ウォニョンが出演する。チョン・ジュリ監督は、長編デビュー作『私の少女』(14、ある視点部門)、2作目『あしたの少女』(22、批評家週間クロージング作品)に続き、これで全3作品がカンヌに選出。“カンヌ育ち”とも言える存在感を見せつけた。
『HOPE』は受賞とはならなかったものの、コンペティション部門で異彩を放ち、カンヌの街の話題を独占した。その爪痕は、映画の冒頭で未確認生物が残した大きな衝撃と比肩するものだ。『HOPE』の日本公開はギャガ配給にて2027年を予定している。
文/平井伊都子

