カンヌのパルム・ドールは“アカデミー賞への近道”ではなくなる?映画祭戦略に起きた地殻変動から、ハリウッドの行く末を占う
5月12日に開幕する第79回カンヌ国際映画祭のラインナップから、今年はアメリカ映画が激減している。2019年の『パラサイト 半地下の家族』以降、カンヌ映画祭の最高賞パルム・ドールの称号は、“アカデミー賞への近道”として君臨してきた。直近の第98回アカデミー賞では、カンヌ出品作が計19ノミネートを成し遂げた。その黄金ルートも、昨年から変化の兆しを見せている。ハリウッドの賞レースと映画祭戦略には地殻変動が起きており、その波紋はアカデミー賞そのものの「見せ方」にまで及んでいる。
主要スタジオによる、映画祭の回避
今年のコンペティション部門出品の22本中、開催国フランス4本、日本からは是枝裕和、濱口竜介、深田晃司の3本、ヨーロッパからは、スペイン、ルーマニア、ポーランド、ハンガリー、ドイツ、オーストリアなど、そしてイランから1本。日韓以外のアジア、中南米からは選出されず、英語圏作品が激減している。ラインナップ発表時点ではアイラ・サックス監督の『The Man I Love』、それから2週間後にジェームズ・グレイ監督の新作で、アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソンが主演する『Paper Tiger』が追加された。コンペ部門以外にもアメリカ映画は少ない。5月、6月はスタジオの夏の期待作が公開される時期で、数年前は『トップガン マーヴェリック』(22)や『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)など、ハリウッド大作がカンヌのレッドカーペットを賑わせていたのに。カンヌ映画祭の総代表を務めるティエリー・フレモーは、「スタジオが製作するブロックバスターや作家映画は、かつてに比べて減少している。ハリウッドのスタジオは、カンヌへの参加が自社にとって有益だと判断すれば、やってくるものだ」と、インタビューで語っている。(*1)
実は、今年2月のベルリン国際映画祭でも、200本以上の上映作品の中に北米メジャースタジオ作品が一本も存在しなかった。3月の第98回アカデミー賞で受賞した『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『罪人たち』、『WEAPONS/ウェポンズ』、映画『F1(R)/エフワン』など、2025年の主要スタジオ作品のほとんどが映画祭を通らずにアカデミー賞までたどり着いている。
映画祭回避は、経済的理由が最も大きいとされる。スターを連れて映画祭に出品するとなると、数百万ドルの経費がかかる。困難を極める調整と高騰する渡航費の費用対効果を考えると、NYやLAでプレミアを行うほうが安全だ。また、転換点として映画業界が挙げるのが、2024年の苦い経験だ。前作『ジョーカー』(19)がヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した実績を持ちながら、続編の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24)は、映画祭プレミア直後から酷評が目立ち、前作の約10億ドルに対し約2億ドルの興行成績で劇場上映を終えた。同じ年のカンヌ映画祭で華々しくワールドプレミアが行われた『マッドマックス:フュリオサ』(24)も、社会現象を巻き起こした前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)の半分以下の興収だった。映画祭が直接の原因ではないにせよ、「批評家に酷評されると、公開キャンペーンが始まる前にコケてしまう」という心理的リスクが、スタジオの判断に影響を与えたと見られている。
