『廃用身』染谷将太が挑んだ“医師・漆原糾”を自ら解体。「演じるうえでは“100%善人”」

『廃用身』染谷将太が挑んだ“医師・漆原糾”を自ら解体。「演じるうえでは“100%善人”」

「プロフェッショナルとしては正しいけれど、人としては冷徹」

映画公開前に行われたMOVIE WALKER PRESS主催の試写会では、観客から漆原の人間性に対する賛否両論の感想が寄せられていた。「応援したくなる医師」という全面的に肯定する声から、「一理あるけれど、いきすぎたところがある」といった賛否決めかねる声、「怖い」や「狂気を感じる」など否定的な声まで。その一部を直接伝えると、染谷は観客の声を真摯に受け止めているかのように何度も頷く。

舞台は“Aケア”と呼ばれる画期的な医療行為が広まる異人坂クリニック
舞台は“Aケア”と呼ばれる画期的な医療行為が広まる異人坂クリニック[c]2025 N.R.E.

そして「漆原の場合は医療を提供する立場として、患者さんやその家族の感情を一切見ることなく、症状や体に対してなにがもっとも適しているのか。その人の介護環境や家庭環境にとってAケアを行なう選択がどれだけよいものなのかということしか考えていなかったんです」と語り、「感情に流されることなく淡々と医療を執行していくのは、プロフェッショナルとしては正しいことだと思います。でも人として考えると、どうしたって冷徹に見えてしまう。きっとその辺りに、皆さん怖さや狂気を感じたのでしょう」と分析。

では客観的に見て、染谷は漆原という医師についてどう思っているのか?訊ねてみると、しばらく考え込んだ後、「ちょっと斬新すぎるので、厳しいかもしれないです(笑)」との答えが。「撮影現場でも、キャスト同士で『自分だったらどうするか?』『自分の家族だったら?』『本人がやりたいと言ったら?』という会話に自然となりました。でも答えが出ることはなく、いつもモヤっとしたまま終わっていたんです。ただ、そうやって想像している時間が、演じるうえではすごく意味のあるものになったとは感じています」。


「“人体に対する冷静さ”は『田鎖ブラザーズ』にも通じている」

『廃用身』での経験は、すでに「田鎖ブラザーズ」にも活きていると語る染谷
『廃用身』での経験は、すでに「田鎖ブラザーズ」にも活きていると語る染谷撮影/梁瀬玉実

子役時代から多くの映画やテレビドラマに出演し、俳優としての実力を磨いてきた染谷。その充実したフィルモグラフィーのなかには『怪物の木こり』(23)や『劇場版ドクターX FINAL』(25)と、本作のようないわゆる“サイコパス”の医師を演じた経験が。「自分で意識していなくても、過去に別の作品で演じた役の経験が新しく演じる役に反映されることはあると思っています。『同じことをしないようにしよう』と意識している時点で、積み重なったものがあるということですからね」。

現在放送中のTBS系のテレビドラマ「田鎖ブラザーズ」では、医師ではないが法医学の知識を持った検視官を演じている。「『田鎖ブラザーズ』の田鎖稔と『廃用身』の漆原は、すでに亡くなった方を相手にしているのか、存命の方と向き合っているのかという大きな違いがあります。ですが、人体に対する冷静さという点では、どこか共通しているものがあるように感じています」と、すでに本作での経験が別の作品へ活かされていることを告白。

決して感情的にならず、追い込まれていく漆原の“脆さ”を体現した
決して感情的にならず、追い込まれていく漆原の“脆さ”を体現した[c]2025 N.R.E.

「ただ漆原の場合、どの方面からも感情が入り込む隙がまったくない。これまで演じたどんな役とも決定的な違いがあり、本当に難しい体験でした」と、あらためて漆原という役の特異性に触れる。「岩上役の六平直政さんが涙を流しながら自分の状況を吐露するシーンの撮影では、思わず自分も六平さんが放つ感情に引っ張られそうになりました。でも我に返って、自分に『それは違うだろう』と言い聞かせたんです。相手の感情に同情してはならない。素直に反応してはいけない演技というのはとても難しく、同時に新鮮で楽しいものでもありました」。

そして「漆原のセリフの大半は、Aケアについて説明するものでした。演じるうえでは、どうすれば目の前にいる人に説得力を持って伝えられるのかを考えることに頭を使っていたので、撮影期間中は毎日お芝居をしに行くという感覚はあまりありませんでした」と振り返る。「“人は生きているだけで演技をしている”という考え方がありますが、それに近い体験といえるでしょう。お芝居なのかどうか曖昧なラインを経験できたことは、確実に今後の作品でも活きていくと思います」と、難役を乗り越えた“その先”に期待感をにじませていた。

『廃用身』は公開中!
『廃用身』は公開中!撮影/梁瀬玉実

取材・文/久保田和馬

※吉田光希監督の「吉」は「つちよし」が正式表記

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