『廃用身』染谷将太が挑んだ“医師・漆原糾”を自ら解体。「演じるうえでは“100%善人”」

『廃用身』染谷将太が挑んだ“医師・漆原糾”を自ら解体。「演じるうえでは“100%善人”」

「医療や介護に限らず、まだなにも確立していないような革新的なものを生みだすことができる人間は、自分に相当の自信があり、周りが見えていない強さがあり、あとちょっとだけ“なにか”が欠落しているものなのかもしれません。でも同時に、一ミリでも自分を疑ってしまうとたちまち崩壊してしまう脆さも備えている。“天才”とは運のめぐり合わせや、あらゆる要素がうまく重なった時だけに成り立つ、紙一重で危ういものだと感じました」。

ヘビーなテーマの作品に挑んだ覚悟を語ってくれた
ヘビーなテーマの作品に挑んだ覚悟を語ってくれた撮影/梁瀬玉実

5月15日に公開を迎えるや、すでに賛否両論の渦を巻き起こしている『廃用身』(公開中)。主演を務めた染谷将太は、自身が演じた漆原糾という医師について、一つ一つ言葉を選びながら“解体”を進めていく。そこには、介護という日本社会における喫緊のテーマに対して極めてセンセーショナルなかたちで斬り込んでいく本作に、主演という立場で深く携わった者として強い覚悟のようなものが見え隠れしていた。

タイトルにある“廃用身”とは、麻痺などによって回復の見込みがない手足を指す造語。現役医師の作家、久坂部羊のデビュー作を原作にした本作の舞台は、ある町のデイケア「異人坂クリニック」。そこでは院長の漆原がコスパのいい介護を目指して考案した“Aケア”と呼ばれる画期的な医療行為が広まっており、それを受けた老人の間では“好ましい副作用”が現れたという。しかし、デイケアに関するとある内部告発の流出と、患者宅で起きた事件をきっかけに、すべてが暗転していくこととなる。

「“100%善人”だという意識をもって役に挑みました」

「脚本を読ませていただいた時に、初めてこの物語に出会いました。これまで誰も触れてこなかった、触れようとさえしなかった題材に挑み、命や医療に関する倫理観をこちらに問いかけてくる。想像を遥かに超える衝撃を味わったと同時に、この作品を映画にすること自体が倫理観を問われるものになるかもしれないと直感しました。『この映画はどうなっていくんだろう?』。そんな不安がまったくなかったとは言い切れません」。

現役医師の作家、久坂部羊のデビュー小説を映画化した『廃用身』
現役医師の作家、久坂部羊のデビュー小説を映画化した『廃用身』[c]2025 N.R.E.

本作のファーストインプレッションを包み隠さずに振り返る染谷は「でもそれと同時に、『この映画を観てみたい』『その先にあるものを見てみたい』という想いが自分のなかに強くあることに気が付きました」と続ける。そうした作品への期待感ともう一つ、メガホンをとった吉田光希監督の存在も染谷の不安感を和らげる重要なファクターとなったようだ。

「10代のころに吉田監督とお会いして、手掛けられた作品もすごく好きで、いつかご一緒できたらとずっと思ってきました。なので、初めに抱いていた不安も『吉田さんなら絶対に大丈夫。絶対に信用できるし、必ずやすてきな作品になる』という確信と安心感によって徐々に取り払われていったんです。おかげで現場に入ってからはリラックスして役に臨むことができました」と明かし、「映画の雰囲気からは意外に思われるかもしれませんが、現場はすごく明るい雰囲気で、スタッフさんも共演者の方々もとても生き生きとしていたんです」と教えてくれた。

10代のころから親交のあった吉田光希監督と念願のタッグが実現
10代のころから親交のあった吉田光希監督と念願のタッグが実現撮影/梁瀬玉実


吉田監督から漆原役についてあったリクエストは、“医師として自信があり、誰も論破できないような隙のない人であってほしい”ということ。染谷は「誰もが漆原の説得力に呑み込まれていくよう演じました。善人なのか、悪人なのか。そのどちらともいえない人物に見えますが、演じるうえでの意識としては“100%善人”。自分の推し進めるAケアは患者のためであり、そのご家族のためであり、介護業界のためである。それだけを考え、自分は正しいことをしているのだという自信を持って漆原に徹しました」と、役づくりの根本でもある“人格”の解釈について言及する。

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