原作者・久坂部羊「満足感でいっぱい」吉田光希監督と語る、衝撃作『廃用身』映画化の手応え
現役医師作家による衝撃作を染谷将太主演で映画化する『廃用身』(5月15日公開)のMOVIE WALKER PRESS試写会が4月15日に神楽座で行われ、原作者の久坂部羊と吉田光希監督、MCとしてジャガモンド斉藤が出席した。
原作は、外務省医務官を経て、在宅訪問医として終末医療の最前線に立ち続けてきた久坂部自身の経験から生まれた小説デビュー作「廃用身」。“廃用身”とは、麻痺などにより、回復見込みがない手足のことを表す。クリニックの院長である漆原(染谷将太)が、介護負担の軽減を目的に、老人の“不要な手足”を切り落とすという従来の価値観を揺るがす治療法「Aケア」を提唱。身体の一部をまるで“廃棄物”のように切断された患者たちは、「憑き物が取れたみたいに体も心も軽くなった」「ここだけ若返ったみたい」とどこか晴れやかな表情を浮かべていく。しかしある出来事をきっかけに、状況が一変していく。
上映が終わると、大きな拍手が沸き起こったこの日。観客と一緒に本作を鑑賞していたという久坂部は、「2回目の鑑賞です」と笑顔。映像化の企画が持ち上がった際には「大丈夫かなと思っていました。不安の方が強く、映像化は難しいと思っていました」と素直な胸の内を明かしつつ、「吉田監督の原作に対する想いが非常に深かった。大変いい映画に仕上がって、うれしく思っています」と絶賛の言葉からイベントがスタートした。
原作のイメージどおりのロケーションがスクリーンに広がっていたことにも感心しきりで、高齢者と介護をしている家族の状況にもリアリティがあったと称えた久坂部。小説において、“不要な手足”を切り落とすという驚くべき治療法を描いた久坂部だが、実際の医療の現場でも、患者から「『痺れがあって、痛みがあって、だるくて、切って楽になるなら切ってほしいです』と言われたことがある」そうで、「それは頭に残っていました」と医師として体験してきたことをインスピレーションとして、執筆に取り組んだと語る。
吉田監督が原作と出会ったのは、大学生のころだという。「読み終わって心の置きどころがなくなったような、宙吊りにされたような気分になりました。同時にページをすぐにめくり直して、これはどういうことなんだと考えて。誰に迫られているわけでもないのに、自分はどうしたらいいんだとソワソワしてしまった」と当時受けた衝撃を回顧。「受け手がそういった感覚になれる作品って、ものすごいと思った。当時は学生でしたが、いつかそういう気持ちを映画を通して発信できる作品をつくりたいという想いがあった。長い間、チャンスがあったら、この原作を映画化してみたいとずっと思っていた」と本作の映画化は念願だったと力を込めた。
ジャガモンド斉藤は、劇中で描かれる考え方が「頭にこびりついてしまう。これから歳を取れば取るほど、頭をよぎっていくようなパンチ力を持った作品」と小説、映画、どちらも同じ余韻に浸ったと吐露。そういった映画にたどり着くまでの道のりに話が及ぶと、久坂部は「他の作品も映画化のオファーがいろいろあって、『監督が決まりました』という話になったり、シナリオの段階までいったものもいくつかある。テレビドラマは実現したものもありますが、映画は実現しないことの連続だった。映画はすべて、途中でギブアップ。特にこの作品は映像化が難しいと思っていたので、たぶん企画が止まるんだろうなと思っていた」とぶっちゃけながら、述懐。
吉田監督は、「脚本に関しては、最初に会った時に『好きに書いてください』と言っていただいた」と久坂部に感謝しきり。久坂部は、自身の原作が映像化される際に「ノータッチ」だと原作者としての姿勢を告白し、「むしろ、どのように料理をしてくれるのかと思う。あとで出来上がったものを観て、こういうふうにしたらもっとおもしろかったのか、あそこはいらなかったのかと思ったり、これを足せばよかったのかと勉強になる。そのためにも『自由にしてください』と話す」と笑顔を見せた。
吉田監督は「そう言っていただいたからには、大好きな作品だからこそ、自分の感じたものはちゃんと残したいと思った」と奮起したそうで、「この原作には、“切ることがありか、なしか”というテーマに留まらない奥行きがあって。クリニックが社会の縮図に見える時もあれば、そのなかで同調圧力も発生したり、漆原のある一部分を掘り起こしてマスコミが騒ぎ立てたりと、いまだに起きていることが描かれている。そういった奥行きがあるので、映画として撮って発信することで、また新たな原作の拡散の起点になってくれたらという想いがあった」と原作に愛情を傾けていた。
すると、久坂部は「原作で伝えたかったことが、見事に表現されていた」と改めて賛辞を送った。次第に主人公の医師・漆原が提唱する「Aケア」を取り巻く意見、見方が変化していく様子が鮮やかに描かれていたという。
「新しい治療というのは、いい面だけではないんです。どんな治療にも影の部分がある。私は、それを伝えたかった。本作は『Aケア』で身体がよくなった、“よかったよかった”ということで終わるわけではない。(患者から)『こんなふうになるとは思っていなかった』『先生、なぜもっと強く止めてくれなかったんですか』と言われるのは、よくあること。患者さんにとっては、うまくいって“よかったよかった”となることを期待されると思いますが、現実はそうではない。“あまり期待しすぎるのはよくない”ということが、この映画にはよく出ていたので大満足です」と現実と照らし合わせながら熱っぽく話すと、吉田監督は「本当にありがたいです。うれしいです」と感無量の面持ちを見せていた。
新しい治療法と患者の間で葛藤し、理想を追い求めるあまりに合理性と狂気の危うい狭間へと踏み込んでいく漆原役を、染谷将太が演じた。
久坂部は「染谷さんは、漆原役にぴったり」とにっこり。「漆原は、善意の医師。患者さんのことを思うがゆえ、それが行きすぎて『Aケア』に結びつく。漆原は誠実すぎて、破綻していく」と分析しつつ、手術シーンをはじめ医療の現場の描き方についても「リアルさは、100点満点」と太鼓判。吉田監督は「脚本段階でも監修の方に入っていただき、現場にも2人、医療指導、看護指導の方に入っていただいた。俳優さんにも介護の仕事をしたことがある方、資格を持っている方を探した。俳優さんのなかには、そういった資格を持っている方がいる。医療関係者、介護関係者の方も映画を観られると思うので、細かい所作まで嘘がないように作りたいという想いがありました」とこだわりをにじませていた。
「満足感でいっぱい」と最後まで幸せな映画化だと話した久坂部。吉田監督は「映画だけで描いていることもあれば、映画には断片しか映っていないけれど、その詳しいエピソードが原作にあったりする。原作と映画、行ったり来たりしながら楽しめるかなと思います」とアピールし、「大前提として、介護問題や高齢化社会といった問題意識を植え付けたいというより、映画体験として楽しめる映画にしたいなと思ってつくりました。その先に感じていただけることがあったらと思います。すぐに言葉にするのは難しい作品。それでいいと思っています。皆さん、それぞれ感じたものを持ち帰っていただけたら」と願うと、原作者と監督、お互いへのリスペクトあふれるトークに大きな拍手があがっていた。
※吉田光希監督の「吉」は「つちよし」が正式表記
取材・文/成田おり枝
