狂気的ヌルヌル…南沙良の体当たり演技がヤバすぎる!変態VS怪異が楽しい『禍禍女』をレビュー

狂気的ヌルヌル…南沙良の体当たり演技がヤバすぎる!変態VS怪異が楽しい『禍禍女』をレビュー

恐怖のさらに先をゆく、ゆりやんの演出術

一触即発状態の早苗と恋のライバルの瑠美(アオイヤマダ)
一触即発状態の早苗と恋のライバルの瑠美(アオイヤマダ)[c]2026 K2P

でも我々は、そんな南の背後に、ほかでもないエンターテイナー、ゆりやんの存在を意識すべきなのだろう。監督としての彼女はきっと、細かなステップから身のこなし、顔の口元のクイッとした印象的なニュアンスに至るまで、率先してあれこれ手本を見せながら演技プランを示したのではないだろうか。特にひろしくんの遺影の前で繰り広げられる女同士のバトルは、最小限の動きと表情だけで2人の間に流れる究極の泥試合を描いており、試合終了のゴングが鳴るその瞬間までクレイジーかつ秀逸なワンシーンに仕上がっている。

監督ゆりやんの才能が際立つ場面はほかにもたくさん。例えば、早苗の決め台詞が決まった瞬間から、突如チャンネルをザッピングするように始まる恋愛リアリティショー(的なチャプター)。そのアイデアに思わず「やられた!」と面食らった。禍禍女に呪われるという道筋は同じでも、そこに至るまでの道筋をこれほどバリエーション豊かに提示できる発想力がすばらしいし、これらの爆弾のような演出で観客をとことん翻弄できるのも、ゆりやんの肝っ玉の大きさゆえ、という気がしてならない。

男女5人でシェアハウス中の明人(九条ジョー)にも魔の手が迫る…
男女5人でシェアハウス中の明人(九条ジョー)にも魔の手が迫る…[c]2026 K2P

一方で、恐怖演出も本当にしっかりしている。しっとりと始まり、徐々に空気を醸成させ、ドスンと落とすかと思えば、さらに輪をかけた展開で楽しませる。単なるエピソードの集積かと思っていた構成も、後半になって密に連携して真相への包囲網が狭まっていく。実は思った以上に複雑な脚本構造ではあるのだが、ゆりやんの手にかかると、怖すぎることなく、楽しさを保ちつつ、それでいて我々の予想や常識を軽々と超えてくるのだ。

主人公、早苗と禍禍女をつなぐものとは?

ゆりやん演出で最高のシーンとして挙げたいのが、巨大オブジェの「口」を介し、時空を飛び越える場面である。なぜヌルヌルなのか。なぜここから禍禍女の出現場所へ移動が可能なのか。説明はなにもない。が、それでもストーリーが成立するのは、もはやなにが起きても受け入れ可能な世界観を構築しているから。そしてこの映画は、ホラーに終始せず、核心をしっかりと伝えようとしている点にも注目したい。

早苗のまっすぐな愛情はしだいに暴走し、狂気を孕んでいく
早苗のまっすぐな愛情はしだいに暴走し、狂気を孕んでいく[c]2026 K2P

そもそも物語の中心にいるのは禍禍女で、早苗はそれを追いかける側。2人の対決は避けることのできない一つの宿命である。と同時に、彼らには共通項も多い。なにより両者の根底には「執着」がある。禍禍女が犠牲者の目を収集するのも、自分だけを見てほしい、ほかの人へ目を逸らすなんて絶対に許さない、という強い情念の表れのように思う。

一方で早苗はひろしくんが死んだというのに、部屋に帰ると悲しむのではなく、むしろ彼の特別だったライバルが許せなくて「くやしい!」と泣き喚く。実体としてのひろしくんは死んでも、早苗のなかで偶像化された彼はずっと存在し続けているかのようだ。

この、愛をこじらせた執着とどう決着をつけるのかがポイントであり、おそらく禍禍女も早苗も、別個の存在でありながら、どこかで重なり合う者同士。だからこそ例の「口」はなにか常識を超えた情念の力で、互いを強く引きつけるのだろう。

高圧的な夫と幼い息子と共に暮らしている玲子(田中麗奈)
高圧的な夫と幼い息子と共に暮らしている玲子(田中麗奈)[c]2026 K2P

そして、田中麗奈演じる女性、渡瀬玲子のエピソードにも引き寄せられた。彼女は、夫という化け物に支配され身動きが取れなくなっている人物。しかし、愛する息子を守るため、早苗とは違うアプローチで禍禍女に立ち向かっていく。様々なバックボーンを持つ人物たちがそれぞれの場所で連動するかのように、己の本心と向き合い、目の前の怪物と対峙して、情念を断ち切り、自分の足で人生を踏みだそうとする。

恐怖、笑い、驚き…いくつもの層を超えた先にある本作の核心には、過去のしがらみや感情を乗り越えて前に進むあらゆる人を応援するメッセージが込められているかのよう。男女の性差など関係ない。本作を見終わった果てには、スカッと晴々とした想いが待ち受けているはずである。


文/牛津厚信

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