映画のプロたちが“三者三様”で『港のひかり』をレビュー!制作陣、キャスト、ドラマ…視点を変えると見えてくる、本作の新たな顔
世代を超えた橋渡し役、舘ひろしが魅せる“静と動”の存在感(映画評論家・伊藤さとり)
藤井道人監督が木村大作キャメラマンとタッグを組むですと!?
それって水と油なのではないかと正直思っていた。だって過酷すぎる撮影で史実をリアルな映画に昇華させた『八甲田山』(77)のキャメラマン(木村大作さんはカメラマンとは言わず昔ながらの呼び方であるキャメラマンと呼びます)と、『新聞記者』でスタイリッシュなカメラワークと編集が話題となった藤井道人監督とでは映画のスタイルも違えば年齢も47歳差。これが上手くいけば藤井監督の新しい扉を開ける映画になるだろうとは思っていたが、完成した作品は、今までの藤井監督作品とは違う、美しい風景が人間を浄化していく人類愛のような広大な映画になっていたのだ。
本作で、間違いなく二人の映画人の橋渡し人となっているのが、主演俳優・舘ひろし。映画をこよなく愛し、自身の演技には謙虚なスターは、木村大作さんとの仕事を喜び、『ヤクザと家族 The Family』で一度現場を共にした藤井道人監督の才能を信じた主演だからこそ、映画では彼らの思いを受け取った静と動の演技を見せている。あのシブ〜い低音ボイスを活かすセリフは、過去を悔い、静かに生きようと決めた男がほんの少しだけ心を開いた瞬間に発せられる。それはクリント・イーストウッドの演技アプローチにもやや似ていて、尾上眞秀さんとのシーンは『グラン・トリノ』を彷彿とさせる。「大作さんはキャメラを同じ方向に何台も並べて撮るんだよ。でもそれが俳優の最善の顔の角度を選べる素材になっているから凄い」と舘さんが、意外な撮影法についてある時、私に語ってくれた。
それにしても俳優に愛され信頼される藤井道人監督だから揃ったとしか思えないキャスティングだった。だって尾上眞秀さんの青年期を、眞栄田郷敦さんが演じるとは誰が思いついただろうか。私は二人がドア越しに鈴で互いを認識し合うシーンが好きだ。なんとも哀愁を帯びていて、男のロマンのようなものを感じて、“ここでは余計なセリフはいらないよねえ”と何度も首を縦に振った。個人的な見解だが、眞栄田郷敦さんの語る目が映画俳優的だと思っている。というのも、セリフよりも立ち姿で感情を表現できるスクリーンサイズの演技アプローチが映画特有だからだ。だから目に魅力が溢れる眞栄田郷敦さんはスクリーンに映える俳優なのだ。本作にはそんな絵になる俳優がずらりと揃っていた。特にピエール瀧さんと斎藤工さんの配役は面白い。通常ならば善人に斎藤工、悪人にピエール瀧となるところだが、そんな観客の想像を裏切ってくれたことで見たこともない一面で私達を喜ばせてくれるのだ。ちなみにMEGUMIさんと演劇界でも著名な赤堀雅秋さんの酒に溺れた夫婦役は、やけに生々しくてそのシーンだけでもひとつドラマが作れる気がした。
いやはや、この映画は今の時代への勝負作なのだ。情報過多の現代で、セリフで状況を説明したり、つい俳優のアップに逃げてしまったり、カット割りを多くすることで、観客に飽きられないように分かりやすい作品作りが増えている中、『港のひかり』はこれらをあえて手放した手法だった。その結果、映画から見えてくるのは、海や空を見つめるように人をじっくりと見つめることで、どんな人が純度の高い人間なのかということ。ノスタルジーがあって、人間臭くて感情を揺さぶりまくる映画に出会えたこの喜びよ。あ、忘れないように書き留めるけれど、映画を見ていたら能登半島へ行きたくなった。それだけ画から清々しい空気を感じるのだ、すごくね。

