“ハードボイルド育児作家”の樋口毅宏が『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』に感じた夫婦のままならなさ「つくづく仲が悪くなるようにできていると実感」
「夫婦の愛憎は大勢のクリエイターに様々なインスピレーションを与えてきた」
――振り返ると、常に夫婦は映画など様々な作品の題材になってきました。夫婦間の物語を描くおもしろさはなんだと思いますか?
「イングマール・ベルイマンの『ある結婚の風景』、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが共演した『Mr. & Mrs. スミス』もありましたし、フェデリコ・フェリーニとジュリエッタ・マシーナ、ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズといった監督と主演女優コンビもそれぞれの作品のなかで興味深いドラマを体現していました。隠れた名作『求婚専科』には、『愛しているけど憎い女ってなんなんだ?』というセリフに対し、『妻だろ?』と返すシーンがあります。長年にわたって夫婦間の愛憎は、大勢のクリエイターに様々なインスピレーションを与えてきたのだと思います」
――お話を伺っていると、夫婦とはどこまでも奥深いものなんだなと実感しました。
「テレビドラマ『肝っ玉かあさん』の脚本でも知られる作家の平岩弓枝さんは、『あんなに憎くて堪らなかったのに先に死なれると淋しくてしょうがない。それが夫婦の味』という名言を残しています。また、タモリさんも会社員だった20代の頃に職場の先輩である女性とご結婚されるのですが、のちに辞書制作に携わった際に“結婚”という言葉を『愛で始まり、やがて憎悪に変わり、感謝で終わるもの』と説明しているんです。どちらも夫婦間の真理を突いていますよね」
「夫婦で殺し合うことがないように離婚という制度がある」
――最後に、明確な答えはないと思うのですが、あえて夫婦生活を円満に長続きさせるにはなにが必要だと考えていますか?
「結局、どちらかは犠牲を強いられているという気持ちになってしまうし、それを取り除くことはできないんですよね。本当に難しいと思います。極論になりますが、夫婦で殺し合うことがないように離婚という制度があるんですよ。今回、『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』を観ながらたくさんメモをしましたし、こんなにもすごい映画を見落とさなくて本当によかったです。ただ、未婚者、離婚経験者しか笑えない。つまり現役の夫婦は身につまされてとても見ていられないかもしれない…。でも、ぜひ大勢の方に観ていただきたいですね」
取材・文/平尾嘉浩
