“ハードボイルド育児作家”の樋口毅宏が『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』に感じた夫婦のままならなさ「つくづく仲が悪くなるようにできていると実感」

インタビュー

“ハードボイルド育児作家”の樋口毅宏が『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』に感じた夫婦のままならなさ「つくづく仲が悪くなるようにできていると実感」

「オースティン・パワーズ」、「ミート・ザ・ペアレンツ」シリーズなどのコメディを手掛け、『スキャンダル』(19)ではテレビ業界のスキャンダルに切り込んだジェイ・ローチ監督が、『女王陛下のお気に入り』(18)、『哀れなるものたち』(23)の脚本で知られるトニー・マクナマラとタッグを組み、1989年公開の『ローズ家の戦争』を再映画化した『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』(公開中)。ベネディクト・カンバーバッチ、オリヴィア・コールマンという、現代の映画界を代表する屈指の演技派をそろえ、2人が演じる夫婦が“命懸けの夫婦喧嘩”を繰り広げる様が描かれる。

「この映画について語ることはカウンセリングになりました」。このように、本作に強い感銘を受けているのが作家の樋口毅宏だ。デビュー作「さらば雑司ヶ谷」をはじめ、「民宿雪国」「日本のセックス」「タモリ論」、ノンフィクション「凡夫 寺島知裕。『BUBKA』を作った男」などを発表。2015年には弁護士でタレントとしても活躍する三輪記子と結婚し、2人の子どもを育てる専業主夫のハードボイルド育児作家でもある。深く愛し合いながらも時と共にすれ違い、やがて憎悪をぶつけ合う劇中夫婦の姿は、滑稽でもあり、共感してしまうところもあったという。オリジナルとの違い、夫婦を題材にした作品のおもしろさなど、ざっくばらんに聞いてみた!

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

「シニカルな悪態を投げかけるすごいセリフ量の毒舌祭り」

カウンセラーにも、修復は不可、と匙を投げられてしまうテオとアイビー
カウンセラーにも、修復は不可、と匙を投げられてしまうテオとアイビー[c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

――とにかくすさまじい口喧嘩の応酬でした!

「ブラックジョークはどれだけ辛辣な言葉が放てるか。単に口汚いだけでなく、ウィットに富んでいるかも大事ですよね。大阪人が『あいつおもろいな』って言われるために、イタリア人が『あいつは女にモテるぜ』って言われるために命を懸けるところがあったりしますけど、イギリス人も『あいつは口悪いぞ』って言われたい。テオ(カンバーバッチ)とアイビー(コールマン)はロンドンからカリフォルニアへ移り住んだ英国人ですが、そんなところにも“らしさ”が表れていました。リベラルで金持ちの友人たちにシニカルな悪態を投げかけていたし、すごいセリフ量の毒舌祭りでした。翻訳も大変だったはずなので、字幕を付けた方にMVPを贈りたいです」

――よくここまで互いを罵る言葉が次から次に飛びだすなと。

「隠語でしりとりをしているようでしたね。あと、“チャールズ・マンソンの機嫌がいい日”なんてワードも飛びだしましたけど、実在する殺人犯をネタにするところにもお国柄を感じました。『哀れなるものたち』のような作品もあるので、スタジオ(サーチライト・ピクチャーズ)らしいと言えばらしいのですが、これがディズニー作品かと思うと改めて衝撃を覚えます」

【写真を見る】口論が銃撃に発展!あまりにも過激な『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』の夫婦喧嘩
【写真を見る】口論が銃撃に発展!あまりにも過激な『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』の夫婦喧嘩[c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

「対立構造が自然と生まれてくるところに脚本の秀逸さを感じる」

――オリジナルの『ローズ家の戦争』もご覧になられていると思うのですが、どんな違いがありましたか?

「オリジナルのほうは監督のダニー・デヴィートが狂言回しの役割も果たしていて、弁護士として“こういう話があったんだよ”と、ある夫婦の物語を回想していくスタイルでした。今回は、冒頭ですでに夫婦仲が険悪になってしまったテオとアイビーがカウンセリングを受けるシーンから始まり、そこから一気に遡って2人の出会いと結婚、どのように確執が生まれていったかをひも解いていきます。そして、中盤で冒頭のカウンセリングに到達し、そこからは怒涛の夫婦喧嘩=戦争へと発展。いいオープニングだったし、その後の展開もおもしろかったですね」


育児や家事を押し付けられたと感じているテオ
育児や家事を押し付けられたと感じているテオ[c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

――印象に残っていることがあれば教えてください。

「特に巧いと思ったのは、テオの職業を建築士にしていることですね。前作でもマイケル・ダグラス演じる夫が自宅に執着しているのですが、当時はそこまでの必然性を感じなかったんです。ところが今回は、夫婦で権利を争う豪華なマイホームは、キャリアを失ったテオが再起を懸けて建てた最高傑作であり、なにがなんでも死守したいという理由があります。対して、アイビーは多角的にレストランを経営するシェフであり、建設費を出してあげただけでなく、キッチンには大切な年代物のコンロが設置してあるので、彼女にとってもこの家は譲りたくないんですよ。この対立構造が自然と生まれてきたところに、脚本の秀逸さを感じました」

いつまでもいじけているテオを女々しいと感じるアイビー
いつまでもいじけているテオを女々しいと感じるアイビー[c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

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