吉岡里帆&水上恒司の懐かしい思い出を蘇らせた『九龍ジェネリックロマンス』。ノスタルジックな世界観の舞台裏とは
「家を出てから10年も経つのかと思うと懐かしさを感じる」(水上)
――「懐かしいって感情は、恋と同じだと思ってる」という工藤のセリフにちなみ、お二人が懐かしさを感じるものを教えてください。
水上「ちょうど昨日観たばかりの映像の話ですが、『子どもが親にされたことで覚えていること』というリストがあって、そのなかには病気の時に抱っこされた温もり、育児で大変な母親の背中、仕事に頑張る父親の姿といったものが並んでいました。僕は15歳で実家を出て、学校で寮生活を送り、そのまま上京しています。家を出てから10年も経つのかと思うと懐かしさを感じると同時に、両親が自分にしてくれたことを思い出すきっかけにもなったし、確かにそうだなと再確認したというか。役でも実生活でも親になった経験はないけれど、いずれ親の苦しみや葛藤を描いた作品に出るかもしれない。そういった時に自分がしてもらったことの記憶、その感情がベースになるような気がしました。自分の身体の一部になっているような感覚になりました」
吉岡「私は撮影中に、無性に日本料理が食べたくなることがあって…」
水上「また食べ物?(笑)」
吉岡「ウフフフ。毎日屋台でごはんを食べることも楽しかったけれど、ふと日本料理が恋しくなった瞬間があって。その時にマネージャーさんと行った寿司チェーン店で食べた納豆軍艦で泣きそうになるくらい懐かしさを感じました。日本で食べた時には感じたことのない懐かしさというのかな。それから日本でそのチェーン店を見かけるたびにすごくエモーショナルな気持ちになります(笑)。時間が経ってから懐かしさを感じるものもあるけれど、それまで懐かしいと思わなかったことに思い出が加わることで懐かしいと思える愛おしいものに変わるということを覚えました」
――すてきなエピソードです。作中に登場する「すてきな靴はすてきな場所へ運んでくれる」「“8(発)”は縁起のいい数字」といったフレーズも印象的です。お二人の好きな言い伝え、格言などがあれば教えてください。
吉岡「『人にしたいいことは自分に返ってくる』。自分より人を優先したほうが結果的に幸せになれる、みたいなことだと思って日頃から意識しています」
水上「高校を卒業する時に、野球を続けるか役者になるのか揺れている時期があって。役者になることを選び、『いままでお世話になったのに申し訳ありません』と監督に伝えたら、『世の中には正解はない。選んだものを正解にしていくしかない』という言葉をかけてもらって」
吉岡「いい言葉だね」
水上「いま、自分が身を置いているのは、野球のようにホームランだ、ヒットだ、三振だ、勝った、負けたという世界ではない。役としてどう動くのか、作品のなかでどう動きたいのか、どういう映画を作りたいのか。正解がない世界にはすごく難しさを感じているけれど、僕のなかではあの時の監督の言葉が助けになったし、いまでも救いになっています」
取材・文/タナカシノブ