戦後復興期の1950年代の長崎と、1980年代のイギリスを行き来しながら、秘められた記憶の謎を描いた感動のヒューマンミステリー『遠い山なみの光』が公開中だ。ノーベル賞受賞作家カズオ・イシグロが1982年に刊行した長編デビュー作を、『ある男』(21)の石川慶監督が映画化した本作は、主演に広瀬すず、共演に二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和ら豪華キャストを迎え、“嘘”から始まる物語を描く。
MOVIE WALKER PRESSでは、BiSHのメンバーとして活躍後、小説やエッセイなど文筆業でも高い支持を集めるモモコグミカンパニーと、映画イベントのMCやアーティストへのインタビューなどで幅広く活動する映画・音楽パーソナリティーの奥浜レイラの2人に、本作についての深い考察を二部構成でたっぷり語ってもらった。前編では、『遠い山なみの光』を通して“記憶”というテーマや、母娘の関係性から見える普遍的な感情について考察。後編ではネタバレありで、観るたびに増えていく新しい発見や、物語に潜む“嘘”と真実がもたらす感動などを読み解いていく。
※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
「謎が明らかになるシーンでは、これまで見てきたものを巻き戻したくなりました!」(モモコ)
奥浜レイラ(以下、奥浜)「それでは、そろそろネタバレありの話をしていきましょうか?早く話したくて、うずうずしていました。モモコさんはどのあたりで、この映画の仕掛けに気づきました?」
モモコグミカンパニー(以下、モモコ)「私は本当に見たものを100%信じてしまっていたので、最後のほうまで、ずっとだまされていました(笑)。たぶん誰もが、『あ、そういうことだったんだ…!』ってわかるシーン、ニキ(悦子の次女)が亡くなった姉・景子の部屋で、長崎の万里子(佐知子の娘)が使っていた木箱を見つけた時です」
奥浜「箱の中から、かつて悦子が万里子に贈った双眼鏡とかも出てきてましたね」
モモコ「悦子の回想シーンで登場したものが、ぜんぶ詰め込まれた箱が景子の部屋で見つかった時に、景子は万里子のことだったんだ…!とわかって、これまで見てきたものを巻き戻したくなりましたね」
奥浜「そうですよね。万里子だったはずの少女が、景子として写っている写真もあって」
モモコ「回想シーンで、万里子は『アメリカには行きたくない』とずっと言っていましたよね。結局、母と一緒に外国に渡ったけど、やっぱりうまくいかなかった。なにか暗いものを抱えながら生きていって、自死という結末を迎えてしまったという。悦子の回想シーンでしか語られなかった幼少期の万里子が大人になるまでの、語られなかった余白の部分に思いを馳せてしまいました」
奥浜「実際に写真が出てきて、そこに写っている人が誰かによって答え合わせが可能になる。それは、映像だからこそ表現できることですよね。原作を映像化したことで、謎を解き明かしていくミステリーとしてのおもしろさが強まると思いました」

■衣装協力(モモコグミカンパニー)
ブラウス・スカート・シューズ/Randa/03-3406-3191、ピアス/STELLAR HOLLYWOOD/03-6419-7480