「路面電車に乗った若き日の悦子が、現在の悦子を見つめるシーンは怖かった」(奥浜)
奥浜「本作に登場するキャラクターは、女性、男性、年齢もバラバラで。世代による価値観の違いなどもテーマとして出てきたと思います。モモコさんは誰の目線で観ていました?」
モモコ「やっぱり吉田羊さん演じる(80年代の)悦子のことが、私はすごく気になっていました。劇中、(80年代の)悦子が『結局、佐知子さんのことはよくわからなかったわ』と当時を振り返って言うんですね。その言葉、1回目に観た時はあまり気に留めなかったんですけど、2回目に観た時、つまり佐知子は悦子のことなのか!とわかったあとだと、悦子は当時の自分がどうしたかったのか、自分自身のことがよくわからなかった、と言っているのとイコールなんだと思って。
回想シーンでは、絶対に海外に行く!と心を決めているように見えたし、実際に娘を強引に連れて行ったわけですけど、実はその時の自分がわからなかった、と言っていたのが印象的です。すごくミステリアスで、魅力的なキャラクターだと思いました」
奥浜「若き日の悦子(広瀬すず)が路面電車に乗っている時に、窓の外に、歳を重ねた現在の悦子(吉田羊)の姿を見つけるというシーンもありましたね。いろいろな解釈ができると思いますが、モモコさんはあのシーンをどのように解釈しますか?」
モモコ「悦子が捨ててしまいたい、暗い気持ちの表れなんだろうなって」
奥浜「それを車内から客観視しているという…」
モモコ「シンプルに、すごく怖いなって思いました。ホラーですね」
奥浜「私もホラー映画を観ている気持ちになりました。悦子にとって佐知子はそもそもどんな存在だったんでしょうね」
モモコ「悦子と佐知子って、ほとんど対照的なキャラクターとして描かれていましたよね。でも、悦子自身のなかにも、対照的な2人の自分が存在していて。すごく自信ありげに見えるけど、実は不安を感じているとか。それこそが人間だよなとも思わされました。私だって、強気な自分もいれば、弱気な自分もいるし。『こうだ!』と決めている自分もいるけど、『本当にこれでいいのかな?』と思う自分もいる。そういう部分の2人だったのかなって、私は解釈しましたね」
奥浜「自分の脳内にも両方いますよね。悦子みたいな考え方と、佐知子みたいな考え方」
「もしかしたら自分も記憶をなにかに責任転嫁している部分があるかもしれない」(モモコ)
モモコ「本来の悦子のキャラクターは、広瀬すずさん演じる若き日の悦子だったのかもしれないですけど、佐知子にならざるをえなかったというか…。そうしないと、時代を生き抜いていけなかったのかなとも思いましたね。そして、母になるって、そういうことなのかなって思ったりもしました」
奥浜「自分のために生きていきたいのか、子どもをメインにして生きたいのか、みたいなところも話題として出てきますよね。悦子が夫の二郎(松下洸平)と玄関先で会話するシーンで、二郎に『君も母になるんだから、もっとしっかりしてくれないと』みたいなことを言われた悦子が『母になったら、いろんなことを諦めなきゃいけないの?』と言い返した時、二郎がハッとした顔をする場面があって。悦子はどこかで自分が理想とする人生を生きたいと思いながら、それによって自分のなかに生まれる罪悪感は、佐知子が考えたことにして押しつけていた。後ろめたさを感じる選択は他人がやったことにしなければ、その先を生きていけなかったのかなと感じました」
モモコ「そうですね。本当は悦子自身が海外に行きたかった、日本から離れたかったのかもしれないんですけど、ニキには『娘である景子の将来のためだった』と言っていたのがすごく印象的で。でも、大人になった景子が自死してしまうという結果を受けて、本当に娘のためだったんだろうか?自分が景子を死なせてしまったんじゃないだろうか?という自責の念を抱いているように感じました。そういう自分のなかの見たくないものを、無意識のうちに佐知子に責任転嫁したんだろうなあと思いますね。
言っていることと、やっていることが、実際はすごく違う。それは映像で客観的に見るとハッキリわかるけど、もしかしたら自分のいままでの人生のなかでも、そうやって記憶をなにかに責任転嫁している部分って、たくさんあるのかもしれないなって考えさせられましたね」
奥浜「そうですね。他人が言った言葉だと思っていたら、実は自分が言っていたとか、記憶がすり替わっていることって私たちでもありますよね」
モモコ「だから、回想って、すごくおもしろいコンテンツだなって思いました(笑)」

■衣装協力(モモコグミカンパニー)
ブラウス・スカート・シューズ/Randa/03-3406-3191、ピアス/STELLAR HOLLYWOOD/03-6419-7480