スパイク・リー版『天国と地獄』の配信がスタート!海外で繰り返し作られてきた黒澤明のリメイク作品を振り返る

コラム

スパイク・リー版『天国と地獄』の配信がスタート!海外で繰り返し作られてきた黒澤明のリメイク作品を振り返る

数々の傑作を世に生み落とした巨匠、黒澤明。その作品群のなかでも人気の高い『天国と地獄』(63)に新たな命を吹き込んだハリウッドリメイク版『天国と地獄 Highest 2 Lowest』がApple TV+で9月5日より配信開始となった。「スター・ウォーズ」シリーズをはじめ、映画界に多大な影響をもたらしてきた黒澤作品は、これまでにも繰り返し、国を越えて翻案されてきた。ここでは代表的な海外リメイク作を紹介する。

代表作といえばこれ!スター大集合の『荒野の七人』

豪華キャストが顔をそろえた(『荒野の七人』)
豪華キャストが顔をそろえた(『荒野の七人』)[c]Everett Collection/AFLO

黒澤作品の代表作を一つだけ挙げるのは難しいが、リメイク版となれば代表作はやはりジョン・スタージェス監督による『荒野の七人』(60)だろう。『七人の侍』(54)の戦国時代から西部開拓時代のメキシコに舞台を移し、盗賊の略奪に悩む農民に雇われた7人のガンマンたちの戦いを描く。

ユル・ブリンナー、スティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソンといったスターが集結し、オリジナルをアレンジした個性豊かな7人のキャラクターに扮したオールスター映画としてヒットを記録すると、『続・荒野の七人』(66)など続編が4作製作されるほどの人気シリーズに。

現代的にリメイクされた『マグニフィセント・セブン』
現代的にリメイクされた『マグニフィセント・セブン』[c] Columbia Pictures /courtesy Everett collection

さらに近年では、デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホーク、イ・ビョンホンといった原作に負けず劣らずの豪華キャストで本作をリメイクした『マグニフィセント・セブン』(16)が作られたことも記憶に新しい。

SFに翻案された珍作?コーマンがプロデュースした『宇宙の7人』

『荒野の七人』と同じくガンマンを演じたロバート・ヴォーン(『宇宙の7人』)
『荒野の七人』と同じくガンマンを演じたロバート・ヴォーン(『宇宙の7人』)[c] New World Pictures/courtesy Everett Collection, battlebeyondthestars-fsct02

ジミー・テルアキ・ムラカミ監督の『宇宙の7人』(80)は、『七人の侍』の舞台を宇宙に置き換えた1作。武力を持たない平和な惑星アキールが、女性戦士や孤高のガンマン、貨物船の船長といった銀河中の個性豊かな腕利きたちを集め、宇宙征服を企む独裁者に立ち向かうという内容だ。

黒澤とも親交のあったロジャー・コーマンが製作総指揮を務めており、惑星アキールの名称は“アキラ”から取られているそう。また『荒野の七人』に名を連ねたロバート・ヴォーンは、コーマンとの縁からガンマンのゲルト役で出演。また、若かりし日のジェームズ・キャメロンが特撮スタッフとして作品に参加している。

裁判沙汰にもなった非公式リメイク『荒野の用心棒』

イーストウッドの出世作となった『荒野の用心棒』
イーストウッドの出世作となった『荒野の用心棒』[c]Everett Collection/AFLO

ある浪人が対立するヤクザたちをたった1人で壊滅に追い込むという三船敏郎主演の『用心棒』(61)。この名作を、マカロニ・ウェスタンの巨匠セルジオ・レオーネが無許可でリメイクし、のちに裁判沙汰になったことでも有名なのが『荒野の用心棒』(64)だ。

アメリカとメキシコの国境の小さな町を舞台に、流れ者のガンマンであるジョーが、町を牛耳る悪徳保安官と悪党を共倒れさせようと画策する姿を描く。主演に抜擢されたクリント・イーストウッドのブレイクやエンニオ・モリコーネの優美な音楽など、マカロニ・ウェスタンを確立したといわれる傑作だ。

ブルース・ウィリスが用心棒を演じている(『ラストマン・スタンディング』)
ブルース・ウィリスが用心棒を演じている(『ラストマン・スタンディング』)[c]Everett Collection/AFLO

同じく『用心棒』をウォルター・ヒル監督がアメリカの小さな町を舞台にギャング映画としてリメイクした『ラストマン・スタンディング』(96)では、ブルース・ウィリスが用心棒を演じたほか、ブルース・ダーン、クリストファー・ウォーケンといった名優が演技合戦を繰り広げた。

『羅生門』を西部劇にアレンジした『暴行』

ポール・ニューマンが盗賊に扮した『暴行』
ポール・ニューマンが盗賊に扮した『暴行』[c]Everett Collection/AFLO

芥川龍之介の小説を黒澤が映画化した『羅生門』(50)。この名作を基にしたマイケル&フェイのカニン夫妻の舞台を、『長く熱い夜』(58)などのマーティン・リット監督がポール・ニューマン主演で西部劇としたのが『暴行』(63)だ。

舞台は19世紀末のアメリカ西部。1人の男の死をめぐり、その容疑者とされるメキシコ人盗賊と被害者の妻、さらに死に際の夫から話を聞いたというネイティブ・アメリカンの老人、3人の食い違う証言から人間の本性が明らかになっていく。

盗賊のカラスコは決闘の末に男を殺したと言い、妻は自分が夫を殺したと主張。さらに老人は彼は自ら死んだと証言するが、真実はもっと醜悪なもので…と忠実にリメイクされている。

イギリスを舞台に生きる意味を問う『生きる LIVING』

ビル・ナイが生に目覚める主人公を演じた『生きる LIVING』
[c] Sony Pictures Classics / Courtesy Everett Collection

日々無意に過ごしてきた役所の職員が、余命を宣告されたことを機に生きることへ情熱を燃やす姿を描いた志村喬主演作『生きる』(52)。この名作を日本にルーツを持つ作家カズオ・イシグロの脚本でリメイクした『生きる LIVING』は、2023年に日本で公開さればかり。

堅物な役所職員の主人公ピーター(ビル・ナイ)がガンで余命宣告されたこと機に、汚水まみれの資材置き場を公園へと整備することに情熱を傾けていく。日本とイギリスという舞台の違いによるマイナーチェンジや、40分の上映時間短縮による雰囲気の違いはあれど、オリジナルに忠実な感動作となっている。


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