二宮和也が映画『8番出口』について川村元気監督と語り合う!「元気さんでなければここまで振り切ったことはできなかった」

二宮和也が映画『8番出口』について川村元気監督と語り合う!「元気さんでなければここまで振り切ったことはできなかった」

「すべて、いまの二宮くんだからこそできたこと」(川村)

――現場で編集をしつつ、皆さんで日々アイデアを出しながら完成を目指したとのこと。新たなものづくりに挑んだ本作ですが、二宮さんから出てきたアイデアでとりわけ驚いたようなものはありますか。

脚本協力としても参加を果たした二宮和也
脚本協力としても参加を果たした二宮和也撮影/コウユウシエン

川村「(シーンを瞬時に描画する)リアルタイムレンダリングというゲームの作り方があるんですが、それを映画の撮影に持ち込んだような現場でした。二宮くんとは現場だけでなく、プロットやシナリオ作りの段階でも話し合いを重ねていました。そんななか二宮くんのアイデアによって、全体の演出プランやストーリーが変わるということが結構多くて。僕が一番ショックを受けたのが、衣装合わせとメイクテストの日のことです。最初は元気な“迷う男”だけれど、ループするなかでだんだん疲弊して、ボロボロになっていく…という順番でメイク考えていたんです。そうしたらその日の夜、二宮くんから『“逆”だと思うんですよね』と連絡があって。最初は日常のループに疲れて人間性を失い顔色が悪いが、ループする地下通路でサバイバルをしていくうちに“迷う男”は人間らしくなっていくんじゃないかと。『本当にそうだな』と思ったんです。メイクの話でありながら、ものすごく本質的な話だった。そこで、僕のプランがいっきにひっくり返った。終盤のある決定的なシーンも、もともとのシナリオにはなく、二宮くんと主人公の状況を突き詰めることで生まれたものです」

やがて自分が同じ通路を繰り返し歩いていることに気付く“迷う男”
やがて自分が同じ通路を繰り返し歩いていることに気付く“迷う男”[c]2025 映画「8番出口」製作委員会

二宮「主人公にとって一番の“ループ”は日常で、そこに戻ることはどういうことなのかという話をしていたら、元気さんが急に黙り始めて(笑)。脚本を書き足して、照明チームや撮影チームも『これはどうする?』とそのシーンの作り方を考えていく。そういったことの繰り返しで、ものすごく有意義な現場だったなと思います。どちらがいい、悪いということではなく、映画の現場にもいろいろな進め方があるもので。寝る時間を削ってセリフを覚えて、次の日の撮影に行くということもあるなかで、今回は夜にはきちんと撮影が終わって、そこからみんなで明日の撮影の話し合いをして、元気さんがそれを持ち帰って、シーンやセリフが変わり、またそれで新たな話し合いが生まれ、リテイクをして…という毎日でした」

川村「何回も撮り直しをしましたし、それこそループしていましたよね。二宮くんは自分のことを“テストプレイヤー”という言い方をしてくれたんですが、そうやって正解を見つけながら作っていくやり方について、怒る俳優もいるかもしれません。でも二宮くんは、台本をもらって演じるという俳優の仕事を超えて、すべてを共にしてくれました。常に、一緒に作っているんだという感覚のある現場でした」

強力タッグで前例のないものづくりに挑んだ二宮和也と川村元気監督
強力タッグで前例のないものづくりに挑んだ二宮和也と川村元気監督撮影/コウユウシエン

――二宮さんにとって、これまでの経験があるからこそ、いまの自分だからこそ、こういったものづくりへの参加の仕方ができたのではないかと感じることはありますか?

二宮「僕にとっても、こういった経験は初めてのことです。年齢を重ね、いろいろな経験をしていくと、やっぱりこれまでに培った技術を放り込みたいと思うわけです。キャリアとして、自分の最高点を出したいと思ったりもする。でも今回においては、不思議とそこを狙うことをしなかったんです。そういうこと以上に、元気さんが求めていた、これはゲームなのか?映画なのか?という境界線をファジーにするためには、シンプルに物事を伝えることが大事だなと思っていました。本作では、主人公が地下通路を迷いながら、実は“人生に迷っているんだ”という方向に物語がドライブしていく。そうなった瞬間から、なにを食べよう、なにで帰ろう、これからどこに行こう…など些細なことでみんなも毎日迷っているよね、みんなも同じなんだと、観客の皆さんを巻き込んでいけるような映画になるのではないかと感じていました」


――確かにゲームと映画の境界線が曖昧になるなかで、観客は“迷う男”と一体化しながら、自分自身の心まで見つめられるような映画として完成しています。二宮さんは「おもしろがってもらえること」を大切に邁進しているように感じますが、ユニークな撮影期間を経て新たな映画体験を届ける本作は、そういった想いとも合致しているかもしれません。

“迷う男”は、絶望的にループする無限回廊から抜けだすことができるのか?
“迷う男”は、絶望的にループする無限回廊から抜けだすことができるのか?[c]2025 映画「8番出口」製作委員会

二宮「そう思います。これは本当に褒めるわけではないんですが、元気さんでなければここまで振り切ったことはできなかったと思います。ここまでフリーハンドに近い形で、それに付いていけるだけのスタッフが集まれたこともすごいことです。監督がほしいものもあれば、みんなとしては、監督はもしかしたらこういうのがほしいんじゃないかと思うものもある。後半はみんな、『元気さんが見たことがないものを提供したい』という想いが強かった。そういったことはすべて、この現場でなければできなかったことです」

川村「すべて、いまの二宮くんだからこそできたことだなと。俳優としてのキャリアがそれほどなかったとしたら、こんなリスクの高い企画に乗ることはできないと思います。僕は今回、『皆さんもわからないでしょうけど、僕自身もこの映画がどうなるかわかりません。だからみんなで発見していきましょう』と最初に宣言したんです。他力本願を掲げたんですね。そんななか最終的になんとかなるという心の支えや根拠になったのは、二宮くんの存在と共に、これまでに僕が40本以上の映画を作ってきているということでした。しかも、ややこしい映画もたくさん作っている(笑)。『告白』や『怒り』、『君の名は。』『モテキ』などいろいろな映画を作ってきたなかで、今回まったく先が見えないものを成立させることができたら、ものすごい映画が爆誕するんじゃないかと思っていました」

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