標高4250mの塩湖に豪華絢爛な宮殿、世界遺産、巨大井戸まで…『落下の王国』の映像美を実現したインドの名所をたどる
MTVやCMの演出で活躍し、『ザ・セル』(00)で長編映画デビューした“映像の魔術師”ことターセム監督が私財を投じ、構想26年、撮影期間4年の歳月をかけて完成させた幻想的なファンタジー大作『落下の王国』(06)。日本では2008年に劇場公開されたが、DVDやBlu-rayを入手することは困難で、配信もされていないため、現在は“幻”のカルトクラシックとして、とりわけアート志向のファンから熱烈に支持されてきた。そんな傑作がこのたび、ついに4Kデジタルリマスター版となって映画館に帰ってきた!
映像イメージにふさわしい場所を求めて世界24か国以上でのロケーションを敢行
時は1915年、映画の撮影中に橋から落ちて大怪我を負った失意のスタントマン、ロイ(リー・ペイス)は、入院中のロサンゼルスの病院で5歳の少女アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)と出会う。自暴自棄になっていた彼はある目的のため、アレクサンドリアに思いつきの冒険物語を聞かせることに。それは、愛する者や誇りを失い、深い闇に落ちていた黒山賊(リー・ペイス/2役)、爆発物の専門家ルイジ(ロビン・スミス)、復讐を誓うインド人(ジートゥー・ヴァーマ)、英国人の博物学者ダーウィン(レオ・ビル)、人間離れした戦闘力を持つ霊者(ジュリアン・ブリーチ)、元奴隷のオッタ・ベンガ(マーカス・ウェズリー)ら6人の勇者が、力を合わせて悪に立ち向かう壮大な叙事詩だった。
CMの撮影で世界各国を訪れ、常に本作のロケハンに励んでいたというターセム監督。自身が思い描く映像イメージを表現するのに最もふさわしい場所をシーンごとに探し求めた彼は、通算24か国以上でのロケーションを敢行した。なかでも重要なロケ地が集中していた国が、ターセム自身の出身地、インドである。ロイがアレクサンドリアに語りかける冒険譚をダイナミックに盛り上げるインドの名所、絶景の数々を紹介していきたい。
この世のものとは思えないほど美しい湖に元王族が暮らす宮殿
●天国に一番近い湖、パンゴン湾
ロイが語る物語の冒頭、黒山賊、ルイジ、インド人、ダーウィン、オッタ・ベンガの5人は、共通の宿敵、総督オウディアス(ダニエル・カルタジローン)によって孤島に幽閉されていた。なんとかこの島を脱出した5人は、切り立った山々に囲まれた岸にたどり着く。この場所のロケ地が、インド最北部でチベットとの国境近くにあるパンゴン湾である。標高4250mと世界で最も高い位置にある塩湖で、透明度の高い紺碧の湖面のきらめきと、乾いた大地、真っ青な空と白い雲とのコントラストが、この世のものとは思えない美しさを漂わせている。
パンゴン湾は全長約150kmの巨大な細長い湖で、東側の3分の2は中国(チベット)の実効支配域に含まれ、西側の3分の1がインドの実効支配域になっている。どちらかの国に爆弾と誤認される可能性があるため、制作陣には花火を使わないようにと警告されていたのだが、大胆にもターセムは、1本の老木の幹から霊者が現れるシーンを撮影するため、木を爆破し炎上させている。ちなみに、日本でも大ヒットしたインド映画『きっと、うまくいく』(09)のラストシーンにもこのパンゴン湾が登場している。
●王族気分が味わえるカラフルなシティ・パレス
インド人は絶世の美女である妻をオウディアスに誘拐された末、自死に追いやられたという設定。このインド人の私邸として、ラージャスターン州の州都ジャイプルにあるシティ・パレスが登場する。かつてはジャイプル藩主の住居だった宮殿で、いまなおその一部には元王族が暮らし、ほかの建物は博物館として開放されている。
オウディアスが自身の妻の美貌に目を付けたことを知ったインド人が、妻がいる部屋に鍵をかけて扉の前で見張ったというエピソードで映るのは、美しい装飾を施した緑の門。インド人の衣装の色とも重なり、インドの国旗にも使われるグリーンは同地では豊かさや騎士道を表す大事なカラーとされている。また、インド人が自死した妻の死を嘆き、二度と女性を見ないと誓う青い部屋はシティ・パレスの奥にある元王族が暮らすプライベート空間で撮影され、こちらも見学が可能とのこと。
続けて、インド人の妻がオウディアスに閉じ込められる“絶望の迷宮”は、シティ・パレスの一角に建つ天文台、ジャンタル・マンタルが使用されている。妻はこの天文台の巨大な日時計の天辺から身を投げる。ジャンタル・マンタルは本作公開後の2010年に世界遺産に登録された。
