『パルテノペ ナポリの宝石』“美しさ”を多方面からひも解くクロスレビュー。時と共に失われゆく美の“その先”とは?

コラム

『パルテノペ ナポリの宝石』“美しさ”を多方面からひも解くクロスレビュー。時と共に失われゆく美の“その先”とは?

ソレンティーノ映画で涙が出るなんて!自己皮肉の精神で「メイル・ゲイズ」の主体を暴いた傑作(イタリア語通訳、翻訳者・本谷麻子)

使用人の息子という身分の違いを知りながらもサンドリーノはパルテノペに惹かれる
使用人の息子という身分の違いを知りながらもサンドリーノはパルテノペに惹かれる[c]2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathe Films - Piperfilm Srl

2024年、うっかりニナ・メンケス監督のドキュメンタリー『ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー』(22)を観てしまい、映画の見方が変わってしまった。映画界の「メイル・ゲイズ(男性の眼差し)」を無意識に受け入れて、気持ちがザラついても蓋をしてきた自分がつくづく情けなくなった。きっともう後戻りはできない。パオロ・ソレンティーノ監督が、女性を主人公にするという。ほとんど肝試し気分で見た。

私の先入観は、いい感じに裏切られた。本作は、これまで映画界が一方的な男性目線で女性を描いてきたと言う指摘に対する、ソレンティーノ監督の率直な回答なのかもしれないと感じた。

イタリア人と接していてつくづく感心するのが、彼らの「自己を皮肉る精神」だ。根底にはきっと、冷徹なまでの自己の客観視があるのだろう。彼らは一番鋭い皮肉の切先を、自分に向ける。それは、自己批判とも自嘲とも自己嫌悪とも違う。ままならない自分をもて余し「自分でもわかっているんだけどね」と苦笑する感じ。その様子がなにやら芝居がかっていて、見ている方はつい笑ってしまう。そして許してしまう。それがいかんなく発揮されるのが、イタリア映画のおもしろさの一つだと思う。


ダッラ・ポルタは、イタリア映画アカデミーが主催するダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で新人賞を獲得した
ダッラ・ポルタは、イタリア映画アカデミーが主催するダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で新人賞を獲得した[c]2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathe Films - Piperfilm Srl

この自己皮肉の精神で、監督は「メイル・ゲイズ」の主体を暴いてみせた。主人公パルテノペが、わざとらしいくらいあからさまな男性目線で切り取られ、スクリーンに現れる。すると直後に、その目線で彼女を見ている男性の姿が映る。彼らは、微笑ましくもあり、無邪気でもあり、滑稽でもあり、暴力的でもある。彼らは、パルテノペを勝手に神格化する。彼女が思いどおりにならないと恨み、貶め、批判し、知性を攻撃する。生まれてきた容姿で存在しているだけで、なぜこんなに傷つけられるのだろう。その悲しみとやるせなさを、これでもかと、うんざりするくらい美しい映像で見せつけられた。ソレンティーノ映画で涙が出るなんて、思いもよらなかった。

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