劇場版『TOKYO MER』監督&脚本家が明かすシリーズ制作裏話!人気の秘訣は「どのキャラも愛されるように“お気に入りのキャラ”は作らない」
「命を預かっている人は、冷静な判断をして割り切ってやってらっしゃる」(黒岩)
――医療もののモデルになった医師の方や、監修に入っている先生などにお話をうかがったりすると、先生たちのほうが作品で描かれているキャラクターよりもぶっ飛んでいたり、考え方の次元が違ったりするようなことに遭遇しがちですが、本作でもそういった場面に出くわすことはありますか?
松木「ものすごくあります。現場で指導していただいている救急の先生たちに『実際、こんなことはしないですよね?』と質問してみると、『やらなきゃ目の前の人が死ぬとなったら、やりますよ』という答えがサラッと返ってきます。本来手袋をしなきゃいけない処置のシーンでも『これだけの設備しかないなかで、いま処置をしなければ死んでしまう状況なら手袋なくてもやるでしょ!』って」
黒岩「医療監修の増田(智成)先生が『それしかないなら仕方ない』って、よくおっしゃっていました。特に印象に残っているのは、前作で千晶のお腹を切るか切らないかという場面。こういうシチュエーションはあり得るのかと質問したら、『全然、切りますね』と即答。どちらかしか助けられない状況において『2人とも亡くなってしまうくらいなら1人を確実に助けます』と、かなりドライに話していたのが印象的でした。命を預かっている人は、冷静な判断をして割り切ってやってらっしゃることを実感する瞬間でもあります」
――黒岩さんの脚本で“お題”を受けて、どのようにロケ地を選んでいったのでしょうか?
松木「実は私、沖縄も鹿児島も今回が初上陸で、全然土地勘がなかったこともあり、もうしらみつぶしに(笑)。脚本のイメージに近いところを見つけたら撮影交渉の繰り返しでした。撮影はできるけれど、火山灰は降らせられないなどいろいろな条件があるので、すりあわせをしながら決めていきました。沖縄をぐるぐる何周もした気がします」
――条件で一番大変だったことを教えてください。
松木「自然を破壊しないこと。このオーダーはもちろん守りつつ、火山灰も降らせたいし、煙も炎も出したい。条件を守りながらできることをスタッフさんたちと相談し、万が一、掃除で取りこぼしてしまっても自然に害がない素材を研究してもらって希望のロケ地で撮影することができました」
黒岩「火山灰ってなにを使ってるの?」
松木「あれは特注のでんぷんと食用竹炭で作った、食べられる火山灰です。基本は掃除できちんと元の状態に戻すのですが、万が一、海などに火山灰が何個か流れてしまっても、環境に影響が出ないものを美術部さんが研究してくださいました」
黒岩「ふわふわに見えたけれど、実際にもふわふわ?」
松木「ふわふわでした」
黒岩「しかも咳き込みそうな感じもあって」
松木「もちろんCGを使って足したりもしています。でも、できるだけ現場で降らすことで、お芝居や場所の質感をリアルにしたかったんです」
黒岩「本物感といえば…地元の方も本物感があってすごくよかった。特に夜の宴会のシーンとか」
松木「セリフのない役は地元の方にエキストラとして参加していただきました。宴会のシーンは基本地元の方たちですし、脱出シーンでもたくさん協力していただきました」
黒岩「噴石とか溶岩とかはいろいろなやり方である程度作れるものだけれど、実際の島民の方など、監督が細かい部分のリアリティを表現してくれるから、たくさんの方に観られる作品になるのだと思います」
松木「ありがとうございます。美術スタッフさんをはじめ、「TOKYO MER」に関わる方は皆さんすごくプロフェッショナルで本当にありがたいです」
黒岩「オペシーンのリアリティがすごいから、リアリティの追求みたいなところは相乗効果があるのかもしれないですね。僕はオペシーンになるとホッとします。ちょっとリセットされる感じがあって」
松木「本当ですか?うれしいです!」
黒岩「なんだろう。現実には起きないことが起こってしまっている状況から一回引き戻されるというのかな。現実に戻されてホッとするんだよね。今回で言えば、噴火のシーンから一瞬だけ離れられるというか…」