映画『フロントライン』モデルとなった医師やクルーが語る真実の物語「医療従事者の思いも詰まっている」
前代未聞の状況下で立ち向かった人々の思いが詰まっている
数人のモデルの集合体が一人のキャラクターになっているケースもある。自分のエピソードが採用されているシーンでは「描いてもらえてよかった」「ここが伝わるのがうれしい」と声を揃える。阿南は結城がフィリピン人のクルー・アリッサを診察するシーンと上野記者(桜井ユキ)との対峙シーンに感動したという。「アリッサの診察シーンは実体験。そこを映画で取り上げてくれたことで、乗客だけでなく乗員の存在もいることが伝わると思います」と力を込める。上野記者とのシーンは「リアルというよりは総合的に象徴するシーンという印象」とし、その理由は「マスコミと我々はなかなか噛み合わないところがあります。そこに踏み込んでくれたこと、我々がどういう視点で報道をしてほしいのかを暗に伝えている気がしました」と感想を交えながら解説。
「面会シーン」と即答した近藤は「我々は命さえ救えばいいのか。感染を広げないためには面会なんてさせるべきじゃないことはわかっている。だけど、命だけが一番重いのか、という話になります。命だけを守ればいいのか人道的に考え、悲劇を防ぎ、人生・幸せを守るという点にスポットを当てていたのが面会シーン。そこをしっかり取り上げていただけたのは本当によかったと思います」と最前線で自身の命を危険にさらしながらも、命を救うと同時に大切にしたいもの、大切にすべきものがあるとも話した。
劇中で唯一、家族との物語が描かれる真田。「帰宅した真田が妻にハグされるシーンは、恥ずかしながら僕の話で(笑)」と照れる高橋。当時、コロナは未知のウイルスで、船内で活動した自分がウイルスを持ち帰っているかもしれないという不安があり、妻が自分のほうに近づいてきた時に一歩引いていると話す。このシーンはダイヤモンド・プリンセス号だけの話ではなく、4年近くコロナに対応してきた医療従事者の思いとしても描かれていると解説。高橋の実話ではあるが「家族に申し訳ないような思いや大きな不安を抱えて帰宅した自分が、(家族から)大切に思ってもらえたことがありがたかったという気持ちを話したら、そのまま映画になっていました」と吹き出し笑いも。「こんな恥ずかしいエピソード話してもいいのかな」と迷いもあったそうだが、「事実をそのまま話したら、そのまま採用されてしまっていました」と戯ける場面もあった。
立松のモデルとなった堀岡は、いまでも心から当時の対応に感謝してもしたりないほどだという藤田医科大学のエピソードがしっかりと描かれていたことに喜びを隠せないと満面の笑みを浮かべる。和田は70代のアメリカ人夫婦のエピソードを挙げ、「普段なら自分のプライベートの携帯電話番号をお客様にお渡しするなんてことはありません。でもあの時は不安を一つでも取り除いて差し上げたいという思いでいっぱいでした」とイレギュラーな状況下で乗客の心のケアも最大限にできたとを打ち明けた。