映画『フロントライン』モデルとなった医師やクルーが語る真実の物語「医療従事者の思いも詰まっている」

映画『フロントライン』モデルとなった医師やクルーが語る真実の物語「医療従事者の思いも詰まっている」

「目の前に困っている人がいたら助ける」医師としてDMATとして当たり前のこと

前代未聞の状況に最前線で立ち向かった災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」にフォーカス
前代未聞の状況に最前線で立ち向かった災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」にフォーカス[c]2025「フロントライン」製作委員会

立ち向かうのは未知のウイルス。自身も命の危険にさらされる状況にありながら、目の前の命、目の前の人の心のケアを優先できた理由は一体なんなのだろうか。上野記者からまた同じような状況になったら「次もやりますか?」と訊かれていたシーンにも通じることだと前置きし、「あのシーンでははっきりとした回答をしていません。でも、やるやらないじゃなくて、私たちがどういう思いでやっているのかということを語っているシーンだと思うんです」と阿南は持論を展開。「暗に『次だって必要だったらやるでしょう』という答え方をしてくれていて。それは我々が常々思っていること。困っている人がいるならやるしかない。そういう思いでやっているんですよね」と強い意志を言葉にする。目の前に困っている人がいるなら助ける、医師としてDMATとして…という点において、阿南、近藤、高橋が普段から思っていることは共通しているようだ。

対策本部でぶつかり合いながら緊急事態の対応をしていくうちに、徐々に変化していく
対策本部でぶつかり合いながら緊急事態の対応をしていくうちに、徐々に変化していく[c]2025「フロントライン」製作委員会

困っている人がいたら助ける、手を差し伸べることに迷いはないとするのは堀岡も同じだ。「目の前の人が死ぬかもしれない。そんな状況なら規則や手順なんてすっ飛ばしますよね」と笑い飛ばしながらも、その目は真剣そのもの。危機的状況のなかでこそ、プロの仕事の熱意、プロの仕事の本当のパワーを見ることができたとも話す。それが表現されていたのが藤田医科大学への移送シーンだった。「最短距離、時間で大ごとにならずに移送できるよう、細かな配慮がされています。例えば感染者がサービスエリアでトイレ休憩をしたら…。当時の状況なら大騒ぎになることは目に見えています。でもそうならない。あんな状況でいちいち止まってETCで…みたいなことにならないよう、移送ルートを共有し、警察が先導してくれたり、自衛隊が運んでくれたり、国交省がサービスエリアを開けてくれたりするわけです。これぞプロの仕事だと思いました」と称賛。続けて「他人事感や、実行不可能な解決案をしたり顔で言われたりするのはとても不愉快でした。映画にも描かれていますが、報道を観ながらくやしい思いをしたこともたくさんありました」とモヤモヤしていたと話す場面もあった。

プロの仕事のパワーを表現されたシーンに感激したとのこと
プロの仕事のパワーを表現されたシーンに感激したとのこと[c]2025「フロントライン」製作委員会

なによりもまず目の前の命を優先しているDMATの姿は同じく最前線で乗客の対応にあたっていた和田自身にも大きな影響をもたらした模様。「医療のお仕事をしていても、感染症のプロではない。そんな方たちが感染を食い止めるために持っている知識を最大限駆使している姿。『はじめまして』といった関係の先生方もいる中で、病院の振り分けもテキパキと解決していきます。その手捌きには本当に驚きました」とDMATの対応力、順応力に言及。

自身も命の危険にさらされる状況にありながら、第一に考えたのは目の前の命だった
自身も命の危険にさらされる状況にありながら、第一に考えたのは目の前の命だった[c]2025「フロントライン」製作委員会

「私は直接患者さんの命を救うことはできません。ただ、気持ちを楽にするために、安心してもらうためにできることをやっていました。でもそれだけではなんだか物足りなくなって…」と気持ちの変化に触れた和田は、「私ももっと直接的に相手の役に立ちたいと思うようになって、クルーを辞めて鍼灸師に転職しました。いまから医者になるのは難しいけれど、クルーの時よりももっと相手の内面に触れながらケアができるというところに惹かれています」と今回の出来事が自身の仕事にも大きな変化をもたらしたことも明かしていた。


取材・文/タナカシノブ

最前線に挑む!『フロントライン』特集【PR】
作品情報へ

関連作品