スタジオジブリや次なる注目作『ChaO』まで!日本名作アニメの系譜を“アニメーション映画祭の権威・アヌシー”からひも解く
9年の歳月を費やした映画『ChaO』、満を持してアヌシーでお披露目
そんな日本を代表するアニメーション映画の登竜門ともいえるアヌシー国際アニメーション映画祭で、今年長編コンペティション部門に選ばれたのが『ChaO』。そのアニメーション制作を手掛けたのは、ハイクオリティかつ革新的な映像表現で国内外問わず多くの賞を受賞し、世界中に多くのファンがいるSTUDIO4℃。監督の青木康浩は、これまでSTUDIO4℃作品では『アニマトリックス』(03)の原画や「魔法少女隊アルス」の各話演出などを担当し、本作が待望の初監督長編となる。
STUDIO4℃の4℃は、“水の密度が一番高い温度”であることから、クオリティの高さの保証を意図して名づけられた。大友克洋製作総指揮『MEMOREIS』(95)、片渕須直監督の長編デビュー作『アリーテ姫』(01)、湯浅監督の長編デビュー作『マインド・ゲーム』(04)など、設立以来、クリエイターの個性を重視し、ジャンルを超えた様々な企画に意欲的に取り組みながら、独創的な映像で観客を引き込むストーリーを描いてきた。2021年のアヌシー国際アニメーション映画祭では、西加奈子原作、渡辺歩監督の『漁港の肉子ちゃん』(21)が正式招待、プレミア上映されている。
人間と人魚が共存する未来都市を舞台にした最新作『ChaO』は、アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフにしたファンタジックなオリジナルストーリー。造船会社で働く平凡でさえないサラリーマンのステファンは、ある日突然、人魚の王国のお姫様チャオに求婚され、周囲の盛り上がりに流されるまま、結婚するはめになる。チャオに求婚された理由もわからず、生活スタイルの違いにとまどいつつも、ステファンは純粋でまっすぐなチャオの愛情を受けて、いつしか彼女に温かい感情を抱くようになっていく。
2016年にプロジェクトが動きだしてから、完成までに費やした歳月は9年。一般的にアニメ映画の作画枚数が3~4万枚といわれるところ、絵を1枚1枚描く手描きアニメーションにこだわった本作の総作画枚数はなんと10万枚超。異なる種族が入り乱れる世界の物語だけに、頭身もシルエットもそれぞれ違う個性豊かなキャラクターたちが、スクリーンの中を所狭しと自由奔放に動き回る姿にワクワクする。水しぶきの表現、音楽と画の融合、アニメーションならではの動きの楽しさをとことん追求した映像は本作の見どころのひとつだ。中国・上海の街並みをモデルにしたというカラフルかつ緻密な背景美術もリアリティにあふれ、エネルギッシュなキャラクターたちの躍動感にマッチしている。
ちょっぴり情けないところもある、ごくフツウの青年ステファンの声にキャスティングされたのは鈴鹿央士。一途で愛情深い人魚の王国のプリンセス、チャオ役には山田杏奈。いまをときめく若手実力派俳優の2人が、みずみずしく繊細な演技でステファンとチャオに共通する純真さ、奥に秘めた芯の強さを表現している。そのほか、彼らを取り巻くキャラクターたちに、山里亮太、シシド・カフカ、梅原裕一郎、三宅健太、太田駿静(OCTPATH)、土屋アンナ、くっきー!と、多様性の共存を描いた本作の世界観にふさわしく、バラエティに富んだ各分野で活躍するメンバーが集結した。
注目度の高いアヌシー国際アニメーション映画祭2025で『ChaO』が上映されるのは、現地時間13日(金)。様々な気づきを与えてくれる、多幸感にあふれた奇跡のラブストーリーを世界がどう見るのかが楽しみだ。
文/石塚圭子